160
その町は谷の上にあるため、墓守の町と呼ばれていた。現在、この町の者たちは古代王墓を見に来る旅行者向けに露店でアクセサリーや工芸品、鮮やかな染料で染められた色とりどりの布など、土産物を売って生計を立てている。
「そこの兄さん、観光かい!? 王墓に行くんだろ? 案内するよ?」
「いや、今日は王墓に行かないから結構だ」
観光客のガイドをして日銭を稼いでいるのであろう日焼けした少年の誘いを断った俺は、黒ヒゲの男が布を売っている露店で適当な砂除けの布を見繕って購入した。何しろ、辺り一面砂漠なので砂塵除けに布が必要なのだ。
「おい、店主。その白い布をくれ」
「毎度! ありがとうございます」
金を支払い、砂漠の砂塵避けに購入した白い布をその場でまとう。ひとまず、情報を集めたいと思った俺は地元の人間である、黒ヒゲの店主に王墓について尋ねてみることにした。
「なぁ、砂漠の王墓について聞きたいんだが」
「王墓? 観光ならガイドでも雇って、王墓内を見ながらの方が良いと思いますよ?」
「いや。観光客向けの話じゃなく、現地の者が知ってる話が聞きたいんだ」
観光客向けの誰でも知っている歴史の話に関しては自分も冒険者として一応、知識がある。どこかで聞いたことがあるような話だろうし、不特定多数の者が知っている情報にさほど価値は無い。それよりも現地の者しか知らない情報の方が欲しかった。
「お客さん。もしかして、王墓のお宝でも狙ってるんですかい?」
「まぁな」
「多いんですよねぇ……。そうやって一獲千金を狙ってくる人。でも、みんな、ロクに何も見つけられずに帰っていくんですよ」
「そうだろうな。だが、意外と盲点になってる所があるかもしれない」
ニヤリと笑えば、黒ヒゲの店主は呆れたように肩をすくめた。
「そうですねぇ……。お宝に直接つながるようなことは分かりませんがね。この町は今でこそ『墓守の町』と言われているが、そもそもの始まりは墓荒らしが盗掘の拠点にしていたのが始まりなんですよ」
「へぇ」
「だから、ほら……」
「ん?」
店主が指さした先には岩壁に、ぴったりとくっつくように建てられている日干しレンガで造られた小さな民家があった。
「ああいう、岩壁に隙間無く沿って造られた住居はたいがい中に入ると、岩窟の入り口がある」
「岩窟の入り口?」
「つまり、壁に穴が掘られていて谷の下にある王家の墓と繋がっているんだよ」
「もしや、墓荒らしの……」
「そう。この町が墓荒らしだった頃の名残です」
「そこを通れば古代王墓に入れるのか?」
「入れるでしょうが、すでに盗掘され尽くした王墓ばかりで状態も悪いですよ。谷を降りれば下からも入れるし、そっちの方が観光客向けに整備されてますから」
「へぇ……」
「この町の住人は通路や王墓の一部を物置に使ったりしてて、あんたが期待するようなお宝はとっくの昔に根こそぎ、持って行かれてますよ」
「物置……」
男の話によると古代王墓の一部は町の住人が随分前から住居や物置として活用したり、中には家畜を育てるために利用している者までいるのだという。
何千年も前の王墓は、内部に壁画も描かれて歴史的価値や芸術的価値も高いはずだが、ここに住んでいる住人はお構いなしのようで、劣化が激しく一部の壁画は亀裂が入ったり、剥がれ落ちたりしているのだという。
「『墓守の町』が聞いて呆れるな。財宝を根こそぎ盗んだだけで飽き足らず、状態保存のことすら考えず、遺物を傷ませるようなことをするなど。やはり墓荒らしがルーツの町というわけか……」