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「それは『親の欲目』だと思います!」
「『親の欲目』?」
「ええ。ウチの親って私が小さい頃から、ちょっと何か出来ただけでも『聖女のようだ!』って絶賛するような親で」
「はぁ……?」
困惑する赤髪の伯爵令嬢フローラに、私は主張する。
「よくあるでしょう? 子供のやることなすことに感動して『ウチの子は天才だ!』って騒ぐ親!」
「ああ、確かにそういう親もいるでしょうけど……」
「きっと、ウチの親が自宅にいる時と同じような調子で、人様にも……。オブシディア侯爵家の方にも、親バカっぷりを発揮したんだと思うわ」
「え……? じゃあ、あなたの魔力が『聖女のよう』っていうのは?」
「『聖女』だなんて、とんでもない! 私はごくごく平均的な魔力しかないですから!」
「そうなの?」
「そうなんですっ!」
ことさら力を込めて断言すれば、伯爵令嬢フローラはあからさまにガッカリした様子で落胆した。
「なんだ……。私以外に『聖女の再来』と呼ばれてる令嬢がいるのかと、期待して損しちゃったわ」
「あはは。ご期待にそえなくて、ごめんなさい」
「それにしても。魔力が普通の分際で子爵令嬢ごときが、侯爵家子息の婚約者だなんて、ずうずうしいんじゃなくって?」
赤髪の伯爵令嬢から、忌々し気に睨みつけられて動揺してしまう。確かに高い魔力と言う付加価値が無いなら格下の子爵令嬢と侯爵家子息が結婚するメリットは無いだろう。
「え、それは……。クラレンス様、ご本人に直接会った時に、ちゃんと説明をしようと……」
「フン! まぁ、いいわ。魔力が高いんじゃないなら、子爵令嬢ごときに用は無いもの!」
フルオライト伯爵家のフローラは完全に私から興味を無くし、スカートのすそをひるがえして立ち去った。なんとかピンチを切り抜けてホッと息を吐くと、横で固まっていたローザも私の方を向く。
「うわぁ。上級貴族には多いらしいけど、典型的な身分と魔力重視者ね……。気にすることないわよセリナ!」
「ええ。ありがとうローザ」
「『聖女』みたいな魔力を持つなんて、そうそうある訳ないのにね」
「うん。そうよね……」
「それにしてもセリナ、婚約してたのね?」
興味津々というのが隠せない様子のローザに苦笑してしまう。残念ながら、私が婚約者について話せることは無い。
「婚約に関しては、まだ本人と顔を合わせたことすら無いんだけどね」
「えー! そうなの!? 婚約してるのに?」
「婚約相手が国外に留学してるから。婚約と言っても親同士の口約束だし」
「そうなんだ」