159
人間と狼獣人のハーフである俺は、持ち前の身体能力を生かして冒険者として活躍していた。数々の仕事をこなしていく内に気付けば『銀狼のヴォルフ』と呼ばれ、上位冒険者としてそれなりに名を知られるようになっていた。
そんなある日、いつものように一仕事すませ酒場で食事をしていると、隣のテーブルで酒を飲む男たちの声が耳に入った。
「久しぶりだな。砂漠に行ってたんだって?」
「ああ。あちらで古代王墓の調査をしていたんだ」
「古代王墓の調査? 砂漠の墓なんて考古学者は大変だな」
「まぁ、大変なのは間違いないが上手くいけば、古代の王と一緒に埋葬された副葬品、金銀財宝が見つかるんだぜ」
酒を飲みながら談笑する二人の男、彼らの発する言葉に思わず聞き耳を立てる。現役の冒険者としては金銀財宝と聞いて、興味を持たずにはいられない。
砂漠の王墓といえば古代の王が葬られた墓に、黄金や宝石を惜しみなく使った副葬品が今も砂漠のどこかで眠っているという話を聞いたことがある。
現地の発掘情報というのは非常に気になるところだ。隣のテーブルの男達は、俺が聞き耳を立てているのに全く気付かないで魚料理をつつきながら話をつづける。
「へぇ。そんな簡単に副葬品が見つかるのか?」
「いや、すでにめぼしい墓は盗掘者に荒らされていて、もぬけの殻さ」
「ハハハ。やっぱり、そんな上手い話は無いか」
「ああ。しかも先日、現地の学者が『すべての王墓は発掘された』という宣言まで出した」
「それで、こっちに戻ってきたのか?」
「まぁな……。だが、俺はあきらめてないぞ」
そう言って神経質そうな眼鏡の男がビールをあおると、連れの小太り男は呆れ顔をする。
「しかし、すべての王墓は発掘されたと学者も言っているんだろう?」
「厳密に言うと、学者は『有名な王墓は全て発見された』と言っているんだ」
「同じことじゃ無いのか?」
「いや、違うさ。つまり有名な王の墓は発見されているし、すでに盗掘の被害を受けて、もぬけの殻だが『無名の王墓』に関しては発見されていない……」
「無名の王墓?」
「ああ……。無名の王墓は、盗掘の被害も受けていない可能性が高いと俺は見ている」
「そんな物があるのか? 無名の王墓なんて」
半信半疑で尋ねる小太り男に、眼鏡の男は声を潜める。
「古代王の家系図を調べると、在任期間が長く、すでに墓が発見されている有名な王の他に、在任期間がごく僅かで墓が発見されていない王というのが確かにいるんだ」
「へぇ」
「在任期間が短く現在、墓のありかが分からなくても、王を墓に埋葬しなかったというのはありえない筈だ。だから、歴史の中で『忘れ去られた王の墓』は確かに存在した筈だと俺は考えている」
「しかし、その『無名の王』とやらの墓の場所は? 肝心の場所が分からなければ、どうにもならないんじゃないのか?」
小太り男のもっともな疑問に、銀縁眼鏡の男はニヤリと口角を上げた。
「それについても、おおよその目星はついているんだ」
「マジか!?」
「ああ、古代の王は皆、砂漠の中にある谷へ埋葬されている。墓守の町呼ばれる土地の下にあるんだ」
「じゃあ、そこを発掘すれば?」
「ここじゃないかと目星をつけて、何ヶ所か調べたんだが空振りでな。砂漠の谷と言っても、一面、砂に覆われてしまってる場所だから調査は難航しているんだ……」
「そうだったのか」
「ああ。そうこうしている内に、発掘資金が尽きて一時帰国というわけさ」
「それは何というか……。残念だったな」
「だが、俺はまだあきらめてないぞ。未盗掘の王墓発見まで、あと一歩のはずなんだ!」
その話を聞いて、確かに未盗掘の古代王墓を発見できれば、手つかずの副葬品、眠っている金銀財宝が手に入る可能性がある。そして、普通の人間には無理でも狼獣人のハーフで鼻が利く自分なら、見落とされている王墓の手掛かりに気付けるのではないか。そう思い興味を持った俺は船に乗り、何日もかけて砂漠にある王墓の谷にほど近い町にやってきた。