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連休も終わり、里帰り状態だったルルとララも戻ってきた。今日からは通常通りの営業である。そんな中、双子はどこか落ち着かない様子で、今もショーケースの中に追加のケーキを入れている私をチラチラとうかがっている。
「二人とも妙にソワソワしてるけど、何か言いたいことでもあるの?」
「セリナ様……」
「ん?」
首をかしげれば、深刻そうな眼差しの双子が意を決した様子で口を開く。
「黒熊のベルントとセリナ様が、お付き合いしてるってウワサを聞いたんですが……」
「本当ですか?」
「え、黒熊のベルントって……。熊獣人の血が流れてるっていう冒険者で、黒髪のベルントさんかしら?」
「そうです! その人です!」
「やっぱり付き合ってるんですか!?」
「恋人なんですかっ!?」
食い気味に質問してくる双子に驚きながら、私は首を横に振る。
「知り合いなのは本当だけど……。お付き合いはしてないし、恋人でも無いわよ」
「してないんですか!?」
「恋人じゃなかったんですか……」
なぜかガッカリして肩を落とす双子に一応、事実を伝えることにした。
「ええ……。先日、お店が休みの時に、市場でガラの悪い人たちに絡まれてね……。そこを偶然、通りかかった、ベルントさんが助けてくれたの」
「ほう」
「それで、お礼もかねて作ってあったハチミツのパウンドケーキを、ここで食べてもらったのよ」
「ほうほう」
「見た目はコワモテな感じだけど、すごく良い人だったわ……。試食の感想もすごく的確でね。ハチミツのパウンドケーキにクルミやレーズンを入れるっていうのは、ベルントさんのアドバイスなのよ」
「なんと!」
「どうして、私とベルントさんが付き合ってるって話になったのかしら? まだその時、一回しか会ってないんだけど……」
困惑しながら首をかしげれば、ルルとララは真面目な顔で私を見つめる。
「セリナ様。黒熊のベルントといえば、冒険者の間では名の知れた存在なんですよ」
「そうなの?」
「ええ。見た目を裏切らない怪力を武器に、数々の難依頼をこなしている、上位冒険者なんです!」
「まぁ……。すごい人だったのね」
片手で簡単にリンゴを握りつぶしていたし筋骨隆々な外見からも、いかにも強そうな印象だったが、そこまで有名な人だったとは思っていなかったので驚く。
「セリナ様。これはチャンスですよ!」
「え?」
「この辺りは妙なゴロツキも多いです」
「そういう、やっかいな連中も『黒熊のベルント』がひいきにしている店なら、トラブルを起こそうとは思わないはずです!」