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イスに座って待っていると白磁器のティーカップに注がれた琥珀色のお茶を出された。白い湯気と共に茶葉の匂いが香り立つ。そして、白磁器の皿と青磁器の皿には、それぞれカットされた黄金色の四角いシンプルなケーキが鎮座している。
「こちらが試作品のパウンドケーキです。ハチミツを使っているのと、使っていないタイプと両方です。どうぞ」
「では……」
黄金色のケーキを食べる様子をセリナ嬢はかたずをのんで見守っている。一口食べれば、新鮮な卵の風味とバターの芳ばしさ、砂糖の心地よい甘さが口の中いっぱいに広がった。
「どうでしょう?」
「……旨い」
「え、本当ですか!?」
「ああ、本当に旨い……。今食べた、こちらはハチミツを使ってないタイプだな」
「はい。その通りです!」
「バターに卵、砂糖、小麦粉。それに少量の塩か。材料の配分も申し分ない」
評判の菓子専門店の菓子職人が作った物だとは思っていたが、想像以上の腕前に舌を巻く。しかし、なぜかセリナ嬢は俺の言葉に呆然としている。
「え、ベルントさん……。材料、全部わかるんですか?」
「当たったか?」
「ええ! 全部、正解です!」
「そういえば熊獣人の血が入ってるから、味覚や嗅覚も通常の人間より、敏感なせいかな……」
「味覚や嗅覚が……」
セリナ嬢は驚いて呆然としている。自分にとって聴覚や味覚や嗅覚が人間より優れているのは普通のことだが、獣人以外にとっては驚くことなのだなと思いながらケーキを味わう。
「試作品だと言っていたが、じゅうぶん売り物になるレベルだと思うぞ」
「では、もう片方のパウンドケーキはどうでしょうか?」
たずねられたので、青磁器の皿に鎮座する黄金色のケーキを一口食べれば、先ほど食べた砂糖のパウンドケーキとは全く違う食感と味に驚く。
まず、ハチミツの作用であろう。砂糖と違ってケーキ自体が非常にしっとりとしている。そして、明らかに風味の違う物が側面から塗りこめられていると感じられた。
「これは、ハチミツを使っているからか。……しっとりとした食感が非常に良いな」
「はい、そうなんです。私も作ってビックリしたんですけど、砂糖よりハチミツの方が食感がしっとりするんですよね」
「それに……。このハチミツを使っている方は、香りづけに酒のシロップが塗りこめられているのか? 酒の風味が強く感じられるな」
「その通りです! 仕上げにお酒のシロップを塗りました。どうでしょうか?」
「ああ。驚いたが、酒のほどよい風味とハチミツの甘さが見事に合っていて良いと思う。これなら毎日でも食べたい」