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突然、ゴロツキどもに因縁をつけられながらも少女は毅然として反論していたが、大の男が三人と、か弱い少女一人では圧倒的に後者が不利だろう。
俺は両者の元へ走り寄り、ゴロツキの男が少女に向かって振りあげた腕を掴むと、そのまま捻り上げた。
「なっ! い、いてぇ!」
「か弱い少女に、暴力を振るおうとは見過ごせんな」
無表情でそう言えば俺の顔を見た途端、ゴロツキどもは、あからさまに顔色を青くした。
「あんたは……。黒熊のベルント!」
「い、いや、違うんだよ!」
「そのアマが、ぶつかって来たんだ……!」
「こっちが大ケガしたのに、あやまりもしなかったから、つい……」
しどろもどろになりながら口々に、弁明を始めるゴロツキどもに呆れながら、汚物でも見るかのような目で連中を一瞥する。
「俺はちょうど、ぶつかる瞬間を見ていたが……」
「えっ」
「明らかに、キサマから、ぶつかってきたように見えたが?」
「うっ!」
「それに大ケガをして骨が折れた割には、しっかり動いてるじゃないか?」
「ぐっ」
「それとも、本当に骨を折られたいか? こういう風に」
先ほど買ったばかりのリンゴを持つ手に力を入れれば、真っ赤なリンゴはグシャリと音を立てて無残に潰れた。ポタポタとリンゴの果汁と果肉が地面に落ちる光景を見た、ゴロツキどもは真っ青になった。
「ヒッ!」
「あっ、骨が折れたっていうのは……。か、勘違いだったみたいで……」
「い、行こうぜ……」
「ちょっ、待ってくれよ……!」
ゴロツキどもは、クモの子を散らすように逃げて行った。か弱い少女だと見て、適当な言いがかりをつけて金をゆするつもりだったのだろう。
「フン。なさけない連中だ」
「あの……」
「ん?」
声をかけられたので見れば、ゴロツキに因縁をつけられていた少女が、おずおずと頭を下げた。
「助けて下さってありがとうございます……。おかげで買ったばかりの、ハチミツのビンも無事で」
「ハチミツ!?」
「ええ。あ、もしかして、ハチミツ……。お好きですか?」
「う……。うむ」
一瞬、迷ったが、すでに反応してしまったことだし『ハチミツが好き』という程度なら人に知られても良いかと判断する。
「あの……。実は私、パティスリーをやっていて。セリナと申します」
「パティスリー? もしかして『パティスリー・セリナ』か?」
「ええ、そうです。ウチの店に来られたことが?」
「いや、噂で聞いたことはあるんだが、入店したことはない」
「そうだったんですね……。あの、実は今、ハチミツをつかった新商品を試作しているんですが、よかったらウチで食べて頂けないでしょうか?」
「え」