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「ローソクに火をつけるなんて子供のお遊戯ですわ! 私くらいになれば、この程度は造作も無いこと!」
「そこ! 今日はローソクに火をつける授業です。特に屋内で必要以上の火魔法は厳禁です!」
「……分かりましたわ」
先生に注意されて、赤髪の女生徒はしぶしぶ火魔法を消した。私が驚いて口をあんぐりと開けているとローザがささやく。
「フルオライト伯爵家のフローラ様よ」
「フローラ……。ずいぶん魔法に自信があるみたいね」
「昔から、魔力が高かったみたいで『聖女』の再来かもって、一部で言われてるらしいわよ」
「『聖女』の再来……」
「あれだけの魔力があるなら、納得よね」
「……そうね」
正直なところ、彼女が見せたレベルの火魔法なら私でも使えるのだが……。それを言えば『聖女』疑惑が深まることは容易に想像できた為、ますます自分の魔力を不用意にさらすことは出来ないと思った。
魔法の授業を終え、ひとまず平均的な魔力の女生徒として過ごせたと息を吐いていると、小気味よい靴音を響かせながら、鮮やかな長い赤髪を揺らしてフルオライト伯爵家のフローラがこちらにやってきた。
「オブシディア侯爵家、クラレンス様の婚約者。セリナ・フォン・セレニテスとは貴方のことですわよね?」
「そうですけど、何で婚約のことを?」
「我が、フルオライト伯爵家とクラレンス様のオブシディア侯爵家は親戚関係ですのよ! クラレンス様のお母様から、子爵令嬢セリナ・フォン・セレニテスとの婚約を決めたと話は聞いておりますわ!」
「親戚……。そうだったのね」
「先ほどの授業で、私の魔力の高さはお分かりになったでしょう?」
「へ? ああ、はい……」
「侯爵家であるクラレンス様のご両親が『魔力の高い子爵令嬢と婚約を決めた』とおっしゃってたから、セレニテス子爵令嬢の実力には、私も興味がありましたのよ!」
「魔力の高い……」
「ええ! 子爵令嬢でありながら、魔力の高さで侯爵家子息と婚約が決まる位ですもの! 相当の実力なのでしょう!?」
「そ、それは……」
「それは?」
赤髪の伯爵令嬢フローラが大きな声で話すものだから、教室中の生徒たちから注目を浴びるハメになってしまっている。どう答えた物かと視線を泳がせているとダーク王子と取り巻き達までもが、こちらに注目している。
マズイ! 平凡、平均、普通を目指している私は、ここで王族に『魔力が高い』などと思われては困るのだ! 私は、意を決して伯爵令嬢フローラに対峙する。