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「さて、休みの間どうしようかしら。とりあえず食料の在庫を確認よね……」
ケーキ作りの在庫はともかく普段の食事は、基本的にメイドである双子にまかせきりにしている。心置きなく休ませるために「私のことは気にしないで」と言ったが、食料の在庫を見ると小麦粉に卵、牛乳のほか、チーズや乾燥パスタ、米、ハム、ソーセージ、ガラスビンに詰められたピクルスのような保存食もある。
「これなら、買い物に行かなくても休みの間は、ウチにある物を適当につまんでいれば良いわね。いや、やっぱり甘い物も欲しい……」
ゴロゴロしながら、手軽につまめる物。そして良い機会だから、以前から考えていたアレを作ろうと考えた。バターと卵などの材料を調理台に上に並べる。バターと卵が常温になったところで、ボウルにバターを投入し、泡だて器でしっかりと混ぜる。
バターがクリーム状になってきたら砂糖を数回に分けてに加え、バターの色が白みをおびてきたら少量の塩も加えて、さらに混ぜる。そこに卵を投入。卵とクリーム状のバターをよく泡立てなじんだ所で、ふるった小麦粉を入れて、後は木ベラで切るようにサックリと混ぜる。
こうして生地が出来上がったところで、底が深い長方形のケーキ型に生地を流し込む。生地をすべて注ぎ終わった後にケーキ型を持ち上げた後、軽くトントンと調理台で音を立てながら生地に含まれていた大きな気泡を抜く。
準備が出来上がったので火魔法で熱した窯に長方形のケーキ型を入れて、生地を焼き上げる。焼き始めて、しばらく経ったら頃合いを見て一度、窯からケーキ型を取り出す。そして、軽く焼けた表面にナイフで一線の切れ目を入れて、再び熱い窯の中に入れる。
このナイフ入れの作業をすることで底の深いケーキ型を使用していても、中身が生焼けにならず、しっかりと中まで熱が通のだ。
こうして、じっくりと火魔法で焼き上げれば、やがて甘い香りが調理場にただよい出し、ケーキ型に注いだ生地がふんわりと山のように膨らんできた。ほどよく焼きあがった所で窯から取り出せし、型から外せば外側は美味しそうなキツネ色。ナイフで切れ目を入れた部分は見事な黄金色に焼きあがったパウンドケーキが出来上がった。
ケーキナイフでカットして一口食べると、食欲をそそるバターと卵の風味、そして砂糖の甘さがほどよく口の中で広がった。
「うん。上手く出来たわね。でも、本当に普通のパウンドケーキって感じよね。普通に作った訳だから、当たり前だけど……」
以前から、店舗で販売するケーキは賞味期限が一日。当日、売り切りのスタイルでやっているから、もっと賞味期限が長い商品も欲しいと思っていた。パウンドケーキなら作った当日に売れ残っても、翌日に販売することが可能だし、涼しい時期なら常温保存でも大丈夫だ。