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「それは……。できれば、そうしたいですが」
「でも……」
ルルとララは言いづらそうにしているが、差し当たっての問題は分かっている。
「ちょうど私も、そろそろ連休が欲しいと思ってた所だし良いタイミングだわ。連休を利用してシスターに顔を見せてあげたら?」
「セリナ様」
「いいんですか?」
おずおずと私の顔をのぞき込む双子に、にっこりと微笑む。
「私一人でも心配いらないから、そのシスターに事情を説明して安心させてあげて。ルルとララのお母さん代わりの方なら、ちゃんと話しておいた方が良いわ」
「ありがとうございます。セリナ様!」
「お礼を言われるほどの事じゃないわよ。むしろ普段、働かせすぎな位だから、もっと早く連休にしてルルとララを里帰りさせてあげられたら良かったわ。気づかなくてごめんなさいね」
「セリナ様、そんな……」
双子が瞳をうるませている。いや、本当にパティスリーを始めてからルルとララには、かなりの労働をさせていると感じていたので、ここらで里帰りして羽を伸ばすのは当然の権利だろう。
「ところでルルとララがいた孤児院って、子供たちがたくさんいるの?」
「え、私たちが出て行ったときは確か、孤児院の子供は10人ほどでしたが……」
「それが何か?」
「ううん。ちょっと気になっただけ」
こうして店舗をオープンさせて以来、初めての連休を取ることになった。前もって貼り紙をして連休にすることを常連客にお伝えすれば残念がられたが、この店舗が個人経営ということを理解して下さってるので、特に大きなクレームのような物は出なかった。
これまで、定期的に一日だけ休みにすることはあったが、久々に連休でゆっくり出来るので個人的にも嬉しい。双子がいないというのは、さみしいが一人でも連休の間だけなら何とかなる。
買いだめしておいたハムやチーズをつまんで簡単な軽食を食べながら、一人でゴロゴロするのも良いだろう。そんなことを考えながら双子が孤児院に里帰りする日、私は密かに用意をした。
「それでは、セリナ様」
「ちょっと孤児院に戻ります」
「うん。ゆっくりしてきて。あと、これ荷物になっちゃうけど良かったら、孤児院の子供たちへの手土産にしてね」
箱型のバスケットを差し出せば、双子は小首をかしげる。
「これは?」
「アップルパイよ。お店でふだん、売ってるアップルパイはシナモンとかスパイスも入ってるんだけど、それはスパイスを入れずに砂糖だけで作ったの。子供には、その方が食べやすいと思うから」
そう。ウチの店で販売しているアップルパイは前日からシナモンなどのスパイスや砂糖、レモン汁をつけ込んだリンゴを使用しているが今回、用意したのはスパイスなどの刺激物が苦手な子供でも、食べやすいタイプのアップルパイなのだ。
「セリナ様っ!」
「ありがとうございます~!」
双子はバスケットを受け取りながら涙目で感謝してくれた。こうしてルルとララは手土産のアップルパイを持って、一時的な里帰りをしたのだった。