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こうして双子は夕食後、無事にクランベリータルトを食べ大満足で一日を終えた。その後、慣れないながらも三人でがんばってパティスリーをやっていく内に、店のケーキを好きになってくれた常連さんが足げく通ってくれるようになり、私も毎日やっていく内に一日に何個のケーキが売れるか、おおよそ分かるようになってきた。
最も怖かった廃棄ケーキについては、売り切りを重視して一定の時間を過ぎると追加のケーキは作らないようにした所、大量の廃棄が出ることはなく売れ残ったとしても双子と私で食べきれる許容範囲内でおさまり、パティスリーの運営は、おおむね上手くいっていると思っていた矢先だった。
一日の仕事を終えた私が一息ついていた時、店舗の掃除を終えた双子が一通の手紙を持って、何やら困り顔で話し込んでいる。
「どうしたの二人とも? その手紙は?」
「あ、セリナ様」
「この手紙は、私たちが育った孤児院のシスターからの物で……」
「へぇ、ルルとララの……。じゃあ、そのシスターがお母さんみたいな方?」
「はい。その通りです」
「シスターは両親のいない私たちを育てて下さった、母親のような存在です」
「その、お母さん代わりのシスターからの手紙ってことは……。何か急用でも?」
心配して尋ねれば、ルルとララ慌てて首を横に振った。
「いえ、急用と言うほどでは無いのですが……」
「その……。孤児院を出る時は、セリナ様のおばあ様の邸宅で働くというのをシスターもご存知だったので」
「引っ越して、働く場所が変わるというのを手紙でシスターに連絡しておいたんですが……」
「『貴族の邸宅にメイドとして雇われたと聞いていたのに、ケーキ屋で働いているというのはどうなっているのか?』と……」
「ああ、心配されてるのね」
「はい……。セリナ様の込み入った事情を、こと細かに書くのもどうかと思ったので」
「引っ越しで住所が変わる事とケーキ屋で接客するという事実だけ、簡単にかいつまんで手紙に書いたんですが、よけいに心配させてしまったようで……」
貴族の邸宅で働くメイドや使用人には守秘義務がある。雇い主のプライベートを部外者に対して、ペラペラ話すのは当然、守秘義務違反だ。
今回、私がパティスリーを始めた事情を部外者であるシスターに対して、事細かに伝えるのは良くないとルルとララも考えたのだろう。
「なるほど。そういう事情なら、直接会ってちゃんと説明した方が良いわよね……。私の方はかまわないわよ」