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「うん。こんな物かしらね」
次に、保冷しておいた生地をタルト型に合わせてセットし、焼いた時にキレイに仕上がるようピケローラーを使って生地底に小さな空気穴を複数あけてから、先ほど作ったアーモンドクリームをタルト生地にしきつめる。ついでに昨晩仕込んでおいたリンゴを使って、アップルパイも一緒に焼くことにする。
火魔法で窯を高温にして、アーモンドクリームのタルトを焼き上げれば、やがてアーモンドの芳ばしい香りが室内にただよってきた。アップルパイの方も見事な黄金色に焼きあがった所で窯から取り出し、風魔法でタルトとアップルパイの粗熱を取る。
熱が取れた所でタルト型を取り外し、冷めたアーモンドクリームのタルトに今日、作ったばかりの真っ赤なクランベリージャムを惜しみなく上から流し込めばクランベリーの赤色が鮮やかな、クランベリータルトが出来上がった。
すぐに販売しやすいようにカットした際に出た切れはじを食べると、甘酸っぱいクランベリーと芳ばしいアーモンドクリーム、そしてタルト生地の食感が絶妙で思わずガッツポーズした。その瞬間、コンコンと調理場の外から慌ただしいノック音が聞こえてくる。
「セリナさ……。店長! ケーキの残数が少なくなってきたんですが、どうしましょう!?」
「ちょうど新しいのが出来上がったから、すぐ店頭に並べるわ!」
銀色のトレイに移したケーキを持って、料理場のトビラを開ければ店内は複数の客でにぎわっていた。そして、私の手元にあるクランベリータルトを見た双子は目を丸くする。
「えっ!」
「赤い!」
「今日、入ったクランベリーで早速、タルトを作ったの。アーモンドクリームに甘酸っぱいクランベリーのタルトよ」
双子に小声でそう言いながら、手早くクランベリータルトの値札を書いて設置した後、ショーケース内に出来上がったばかりのタルトを入れれば、鮮やかな赤色が印象的なクランベリーは照明の光を受けて宝石のように輝き、来店していた客の視線を集めた。
「あら、新しいケーキなの?」
「はい。クランベリータルトです! 今、作ったばかりの出来立てですよ!」
タルトを並べながら笑顔でそう伝えれば、女性客の顔がパッと明るくなった。
「出来立てなの? じゃあ折角だから、そのタルト頂くわ」
「ありがとうございます!」
「私も、そのクランベリータルト買うわ」
「ありがとうございますっ!」
こうしてショーケースに入れたそばから、クランベリータルトは飛ぶように売れていき、私は大慌てで再び追加のケーキを作ることになった。