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果物屋でクランベリーなどを購入して帰路につく。この真っ赤なクランベリーを使ってどんなケーキを作ろうとワクワクするが、ずっしりと重みを増した編みカゴが手に食い込んでキツイ。
「昨日も思ったけど、果物って重いのよね……」
個人で食べる量ならいざ知らず、販売する商品の食材としての量となると、それなりの重量だ。これを毎日、続けるのは今さらながら大変だと思ったその時、料理人らしき白いコックコート姿の男性がガラガラと二輪の木製手押し車に大きなカボチャやニンジン、ジャガイモなど大量の野菜を積み込んで運んでいるのが視界に入った。
「手押し車……。そうか、ああいうのを利用すれば」
そう思いながら市場を歩いていると買い物用の手さげ編みカゴ、ピクニックバスケット、収納カゴなどを多く販売する店で、ひときわ大きな物が目に入る。
「こ、これは!」
「いらっしゃい、お嬢さん! そいつは編みカゴ職人が丹精込めてヤナギを編み込んで作ったカゴに、車輪を四つ取り付けた安定性抜群の手押し車だよ!」
「これって、買い物に……?」
「ああ、もちろん買い物の荷物運びにも、乳母車にも使える優れものだよ!」
「くださいっ!」
私は即決で購入した。可愛らしく編み込まれた大きめの茶色いカゴに、車輪が取り付けられている金属部分はシンプルながら見事な曲線美が強調されたデザインで私は一目で気に入った。購入した手押し車に早速、さきほど購入したばかりの果物を入れて押してみると、カタカタと音を立てながら手押し車はスムーズに動いた。
「これは良いわ……。これさえあれば、買い物がかなり楽になるわね」
思わず衝動買いしてしまったが、この手押し車を利用することによって、買い物で重い荷物を持って腰や肩を痛めるリスクが一気に軽減できたはずだ。
「予想外の出費になっちゃったけど、これは毎日つかえる物だし良い買い物をしたわね。ルルとララにも使ってもらえるし……」
ホクホク顔で店舗に帰ると『パティスリー・セリナ』から、ちょうど数人の客が出て行くところだった。ニコニコ顔の双子がお客様に「ありがとうございました~」と声かけした後、店舗に入れば双子が手押し車を押して店内に入る私の姿を見て口をあんぐり開けて驚く。
「お、おかえりなさいませ、セリナ様……」
「その手押し車は?」
「これね。見かけて衝動買いしちゃったの」
「衝動買いですか……」
「は~。これまた立派な手押し車ですねぇ」
「乳母車にも使えるんですって。中々、可愛いデザインでしょ?」