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店舗開店から二日目、ベッドから起き上がりカーテンと窓を開ければ明るい日差しが差し込んできた。小鳥たちがさえずりながら、気持ちよさそうに朝日をあびながら空を飛んでいる。
「うん。今日も天気が良さそうね!」
私は昨日に引き続き、早朝から起きてケーキの仕込みを始める。忘れないように保冷庫とショーケースの魔道具に魔力を送ってから、風魔法で卵を泡立てスポンジケーキ生地を作り、型に出来上がった生地を流し込んだ後は窯に入れ火魔法でケーキを焼き上げていく。
パイ生地も、パイ型に合わせてどんどん作る。昨日の内に仕込んでおいたアップルパイ用のリンゴをパイ生地に流し込み、さらに上から別のパイ生地でフタをして、ツヤ出し用の卵黄を表面にぬってから窯で焼き上げれば、リンゴとシナモンの香りが食欲をそそる黄金色のアップルパイが出来上がった。
「やっぱり、前日に仕込んでおくと作業が楽ね。いっそ、冷凍パイシートでも作って作り置きしておこうかしら。いや、さすがにそこまでは……」
それ以前に冷凍となると、冷凍庫が必要となる。現在、保冷庫はあるが冷凍するための設備は無い。
「コルニクスさんに相談して冷凍用の魔道具を作ってもらえば、どうにかなるかしら……」
あの気むずかしい魔道具屋の店主に頼むのは腰が引けるが、本当に必要なら依頼すべきだろう。そういえば、冷凍庫があれば、アイスクリームも作れるんじゃないかとぼんやり考えながら風魔法でクリームを泡立て、果物をカットし、冷めたスポンジケーキにカットした果物とクリームを盛り付けていく。
「フランスあたりのパティスリーだとアイスクリームも販売してるのよねぇ。アイスクリームならケーキみたいに賞味期限が一日ってことも無いし、取り扱えるなら悪くないかも……」
目下、この店では廃棄ケーキを減らすことが最大の目標の一つとなっているが、賞味期限が一日の生洋菓子と違って、市販されているアイスクリームやシャーベットのような氷菓子の場合、賞味期限はない。
なんでもアイスクリームが保存できるような冷凍庫の気温なら、細菌が発生しないため賞味期限を表記しなくて良いのだとか。ただ、日本の衛生管理が行き届いた工場としっかり製品が密封された状態での話なので、仮に私が手作りでアイスクリームを作るとなると、やはり新鮮な内に食べた方が良いだろう。
「それにしても、賞味期限に余裕がある商品っていうのは魅力よね。特に暑い季節なら、この世界でもアイスクリームみたいな冷たい氷菓子のニーズは貴族、平民、問わずあるはず」
つぶやきながらも保冷が必要なクリーム系、生フルーツ系のケーキを優先的にどんどん保冷中のショーケースに入れていく。色とりどりのフルーツケーキや黄金色のチーズケーキ、青紫色のブルーベリータルト、アップルパイ、パンプキンパイなどが整然と並んでいく。