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夕食を食べた後、白磁の食器を片付けた双子のメイドは上目づかいで、チラチラとこちらの顔色をうかがっている。私はルルとララの意図を察した。
「売れ残りのケーキは明日、販売できないし後はどうせ捨てるだけだから。……二人が食べたいなら、食べて良いわよ」
「食べたいです~!」
「やった~!」
もろ手を上げて喜ぶ双子に苦笑する。
「でも、食事が終わったばっかりでお腹に入らないんじゃない?」
「大丈夫ですっ!」
「甘い物は別腹ですからっ!」
キリッと断言して売れ残ったケーキの中で、食後のデザートをどれにするか双子が品定めしている。量的に考えて三人で食べても、さらに翌日食べる分もある。
「売れ残ったパイは、明日の朝ご飯にしようかしら……」
「あっ、そうですね!」
「アップルパイやパンプキンパイなら、朝食にも良いですね!」
そんな感じでパイ類は翌日の朝食に回すことにして、残ったケーキをデザートとして美味しく頂いた。今日、売れ残ったケーキは幸い三人で消費できる量だし双子はケーキが大好きだから、売れ残りのケーキを食べるのも今の所、苦になっていないようだ。
しかし、これが毎日つづいて大量の廃棄ケーキが出る事態になれば店舗の赤字につながる一方だし、もったいないから食べるにしても相当苦痛になるだろう。
私に気を使いがちなルルとララは廃棄ケーキが出れば、必ず食べたがるだろう。しかし、双子が求めるまま廃棄ケーキを食べさせていけば可愛い猫耳メイドが、丸々と太った豚メイドになりかねない。
店内を歩くたびにドスン、ドスンと地響きがするような、相撲取りレベルの豚メイドとなるような事態だけは、断固として阻止せねばならない。
これは従業員の健康にも関わる問題である。つまり、彼女たちの体型をこのまま維持させるのは、私の管理者としての義務でもあるはずだ。
「ケーキは美味しいけど、食べ過ぎも良くないからなぁ……」
薄紅色のくちびるに白いクリームをつけて、キャッキャとケーキに舌づつみを打つ双子を見ながら、リンゴの赤色と風味が濃くにじみ出たフレッシュ・アップルティーを飲みつつ、一人ごちる。
賞味期限の短い洋生菓子の数は極力おさえて当日、売り切りを目指しながら、賞味期限に余裕のある商品も置かないとなぁとぼんやり思う。
何気なく窓の外に視線を向けると漆黒に見える夜空にも、キラキラと小さな星がまたたいているのが見えた。何気なく作ったアイシングクッキーもちゃんと売れていたし、売れ行きを見ながら焼き菓子のラインナップも増やしていくかと思案する。
「慣れないことだらけで、手探り状態だけど……。破棄を減らすことを目標にして赤字が出ないように、生菓子を多く作りすぎないように注意しながら、がんばろう……」
そんなことを考えながら『パティスリー・セリナ』の開店、一日目は終わった。