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「私、急いでスープともう一品作ります!」
「私、サラダと付け合わせも作ります!」
「ああ。一日中、接客で疲れただろうから、軽く休憩してからでも……」
疲れているであろうルルとララを気づかうが、双子は明るい表情で瞳を輝かせる。
「いえ、大丈夫です!」
「すぐに取りかかります!」
「そう? あ、私は明日の仕込みがあるから、急がなくても良いわよ?」
「え……。今から、明日の仕込みをするんですか?」
「うん、ちょっとパイの仕込みをしておこうと思って……」
双子がスープやサラダを作る間、私は明日つくるアップルパイの仕込みを始める。真っ赤なリンゴの皮をむき、芯をくりぬき、リンゴの果肉を食べやすいようにカットしていく。
そしてカットしたリンゴをボールに入れてから、砂糖やシナモンなどのスパイスをまんべんなく振りかけ、混ぜ込み、レモン汁につけて、一晩寝かせておくのだ。
こうすれば翌日、果肉に砂糖の甘さと程よいスパイスの味と香りが染み込んだアップルパイ用のリンゴが用意できる。仕込んだリンゴを保冷庫にしまってから、不意にあることを思いつく。
「セリナ様! 夕食の用意できました!」
「セリナ様が作って下さったキッシュも焼けました!」
「うん。じゃあ、食べましょうか」
「はい! では、お茶の用意をします!」
「あ、待って。私がお茶の用意をするわ」
「セリナ様が……?」
「ええ」
双子がテーブルに料理を並べている間、私はお茶の用意をして白磁器のポットをテーブルに置いた。白磁のティーカップにお茶を注ぐと、えもいえぬ芳香がただよった。
「これ、何ですか!?」
「すごい良い香りがするお茶です!」
双子が驚くのも無理はない。白磁のティーカップにそそがれた、琥珀色のお茶からは熱い湯気と共にフルーティな芳香がただよっている。
「これ、茶葉自体はいつもと同じ物なのよ」
「ええっ!?」
「信じられないです!」
目を丸くして驚きを隠せない様子の双子に、私はポットのフタを開けて見せながらタネ明かしをする。
「うふふ。実はポットの中にリンゴの皮と芯を入れてるの」
「リンゴの皮と芯?」
「……あ、本当にポットの中にリンゴの皮と芯が!」
ルルとララがのぞき込んだティーポットの中には確かに、リンゴの皮と芯が熱い湯の中でたゆたっている。
「それで、こんなに良い香りがするんですか!?」
「ええ。ポットにリンゴの皮と芯を入れてから普通に茶葉と熱湯を入れて、蒸らしただけなのよ」
「それだけで、こんなにも香りが出るなんて……」