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ルルとララが笑顔で接客し、お客様も「家に帰って食べるのが楽しみ!」と言いながらホクホク顔で帰っていった。
その後、エマさんのお店で、この店の事を聞いたという客が多く流れて来てほとんど客が途切れることは無かった。この調子なら、悪くないと思っていた矢先、ショーケースの中をのぞき込んだルルが慌てて振り返った。
「セリナさ……。店長! フルーツケーキが売り切れそうなんですが!?」
「えっ?」
見れば、確かにフルーツケーキの残りはわずかだった。とっさに腕を組んで考える。新たにフルーツケーキを作るのは可能だが、その為にはストックしてある果物を複数、カットせねばならない。
そして、新たに作った丸一個を売り切らないと、日持ちしないフルーツケーキの売れなかった分はそのまま破棄につながる。私はこめかみをおさえて悩んだ。
「どうしましょう店長?」
「追加のフルーツケーキは作らないわ。……無くなったら売り切れで、他のケーキをおすすめして」
「分かりました!」
双子に指示を出した後、調理場でコッソリ作業しながら考える。日が暮れれば、外を出歩く人は一気に減る。そして、間もなく日暮れに差しかかる時間だ。
下手に追加でケーキを作るのは危険すぎると判断したのだ。仮にフルーツケーキが売り切れても他のケーキもある。そして、出来ることなら、全商品を売り切ってしまいたい。
そう思っていたが、やがて夕闇が濃くなるにつれ客足はまばらになり、日が完全にしずむと完全に客の姿が途絶えた。ガラスのショーケースの中にはアップルパイなどが数切れ、残っているがこれ以上、ねばって店舗を開けていても仕方ないと判断する。
「今日はこれで閉店にしましょう。二人ともお疲れさま」
「はい~」
「おつかれさまです~」
「今日は本当にご苦労さま。実はさっき、これを作ったんだけど」
慣れない接客業で、さすがに疲れた様子の双子を笑顔でねぎらいながら、私はさきほど作った物を見せる。
「これは……」
「ジャガイモとホウレン草とベーコンのキッシュを作ったの」
「キッシュ……」
そう。今日はこれ以上、追加でケーキを作らないと決めた時、密かに野菜をきざんで夕食用にパイ料理の一つであるキッシュを作っていたのだ。
「ええ。簡単な物だから、味は自信ないけど……。あとは焼くだけの状態にしてあるから」
「セリナ様~!」
「ありがとうございます~!」
店頭での接客が終わった後、夕食づくりに取りかかるつもりだった双子は、私の作ったキッシュを見て目をうるませながら喜んでくれている。