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可愛らしい双子の猫耳メイドが、開店前に販売スペースとなる店頭の内外を掃除する。ガラスのショーケースやガラス窓をピカピカにみがき上げれば、店の外からもショーケースに並んだ色とりどりのケーキが宝石のように輝いているのが見える。
いよいよ店舗がオープンする時間だ。双子も私も、わくわくしながら来客を待つが、待てど暮らせど期待とは裏腹に客がやってくる様子は一向に無い。
「…………お客様、来ないわね」
「ま、まだオープンしたばかりですから!」
「その内、来ますよっ!」
「うん。そうね……」
懸命にフォローする双子の言葉にうなずいたが、その後も店舗に客が入って来る気配は無かった。
「……お客様、来ないみたいだし。今の内に明日、使う果物を市場に買いに行くわ。二人で店番、お願いできるかしら?」
「はい! 了解しました!」
「おまかせ下さい!」
こうして閑古鳥が鳴く店を出て翌日、使用するケーキ用の果物を購入する為、市場に足をのばした。契約牧場から毎朝、契約分の牛乳や卵などを配達してくれてるのと同様に、果物も運んでもらえれば楽なのだが、やはり店頭で旬の果物を手に取って良い物を選びたいという思いから、当面はこうして市場まで通うつもりである。
「それにしても開店して、全く客が寄りつかないというのは地味にこたえるわね」
市場への道すがら、一人ため息をつきながら呟く。
「まだ、店舗がオープンしてからそんなに時間が経っていないから良いけれど……。これが丸一日ずっと続いて、早朝から起きて作ったケーキが一つも売れなかったら、さすがに心が折れそうだわ」
明日もこの調子で、お客が入らなかったらどうしようかと不安になる。
「今日の状況を見て、あまりに売れ行きが悪いようなら、日持ちしない生洋菓子の数を減らして、もっと需要がありそうなパンを売った方が良いのかしら……」
前世では確か、フランスのパティスリーなどではケーキばかりじゃなく、パンも販売していたはず。パンとケーキは基本的な材料や製造工程も重なる部分が大きい。やろうと思えば、現状の設備を利用してパン販売をすることも可能なはずだ。
「作るならバゲットやクロワッサンあたりか……。でも、スコーンやパウンドケーキならともかく、実際にパンを作ったことは、あんまり無いのよねぇ」
私のケーキを食べた双子の反応も良かったし前世のケーキ知識があれば、何とかなるんじゃないかと考えていたが、見通しが甘かっただろうかと肩を落としながらも市場に到着した。