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ルルとララが、大きく目を見開く視線の先には、黄金色のアップルパイやパンプキンパイ、赤紫色の彩りが鮮やかなブルーベリータルトが調理台の上に並べられている。
「わぁ! すごい!」
「美味しそうです~!」
キラキラと瞳を輝かせながら出来上がっているケーキに見入る双子に思わず苦笑した。
「保冷が必要なケーキは、店頭のショーケースに入れてあるから」
「ショーケースに?」
「うわぁ! ショーケースいっぱいにケーキがつまってます!」
そう、魔道具で保冷されているショーケースの中には、早朝から焼いたスポンジケーキと先ほどカットしたばかりの新鮮なフルーツをふんだんに使用した、色鮮やかなフルーツケーキや黄金色のチーズケーキなどが鎮座している。
「パイやタルトは常温でも大丈夫だけど、ショーケースの中に入ってるケーキをお客様が購入した時は必ず、保冷が必要なことを伝えてね」
「保冷袋を一緒に入れて良いか、聞くんですよね?」
「ええ。ただし有料だから、そこも忘れずにお伝えしてね」
「はい!」
氷の魔石カスが入っている保冷剤は仕立屋で袋詰めしてもらった手間賃などがかかっている関係で、そこそこの料金が発生している。普段、保冷に関して無頓着な人にしてみれば、余計なお金をかけてまで保冷剤を購入したいとは思わない可能性も高い。
そもそも、この店は立地的に裕福な貴族層向けでなく、あくまで庶民向けの店だ。無駄な出費は控えたいと思う人の方が多い気がする。そして、ある程度の魔力がある人にしてみれば、自分で氷魔法を使って保冷できるから保冷剤を必要としないという人もいるだろう。
そんなことを考えている間にも窯に入れていた芳ばしい香りを漂わせていた焼き物ができ上った。鉄板を取り出せば、そこにはアヒルや花の形をして、キツネ色にこんがりと焼けたクッキーが整然と並んでいる。
「クッキーも販売するんですか?」
「ええ。肉屋のエマさんに渡したアイシングクッキーを見て、この店に来る人もいるようだし……。念の為、ちょっと用意しておこうと思って」
アイシングクッキーとしてデコレーションするので砂糖を控えめにして作ったクッキーである。熱々のクッキーがしっかり冷めてから、そこに卵白と粉砂糖を混ぜて作ったアイシングの白いクリームをデコレーションする。
出来上がったアヒルや花の形をしたアイシングクッキーは、店舗オープンまでに買い集めていた透明なガラスのビンにつめて、さらにビンの底には乾燥剤として生石灰を小袋に入れた物を一緒に入れる。
クッキー自体に防腐剤は使用していないが、ガラスのビンに入れて密封すると同時に、生石灰が乾燥剤となるので普通に空気にさらしておくよりは賞味期限が伸びるはずである。