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そうつぶやき、銅製のボールを人肌程度の湯せんで温めながら、ボールに入った複数の卵が泡立つように風魔法を繰り出す。ボールの中の卵は風魔法によって起こった『つむじ風』によって泡立てられ、どんどんメレンゲ状になっていく。
その間に砂糖を複数回に分けて加えながらツノが立つほど、じゅうぶんに泡立てる。そして、ふるった小麦粉を加え、気泡がつぶれないように気を配りながら手早く、さっくりと混ぜる。
さらに、用意しておいた溶かしバターと牛乳を最後に混ぜいれ、バターを塗り込んだ銅製のケーキ型に生地を流し込んで、火魔法で熱しておいた窯に入れる。
「スポンジケージを作るにあたって温度管理は重要だけど、自分で火魔法と風魔法を駆使しながら作れば薪代の節約になるし、火力調節も思い通りだものね」
そう。双子が早朝から仕込みの手伝いをしたいと言ってくれた時、長時間労働になると言って断った。それも事実ではあるのだが、私は一人で魔法を使ってケーキを作りたかった。だから、双子に早朝からの仕込みで一緒に調理場に入られたくなかったし、調理場に入る時は必ずドアをノックして声をかけてほしいと要望を出したのだ。
こうして火魔法と風魔法をフル活用しながら窯でスポンジケーキを焼いていると、やがて調理場の室内に甘く芳ばしい香りがただよってくる。ほどよい所で窯から鉄板ごとケーキ型を取り出せば、そこにはふんわりと黄金色に輝く見事なスポンジケーキが焼きあがっていた。
「よし! 成功だわ!」
魔法を活用することで余計な労力を使わずにケーキを作れる。この方法なら、私一人でも店舗で販売する量のケーキを開店までに用意するのは十分可能だろう。
「でき上ったスポンジケーキは風魔法を使って冷ましながら、次の作業をしよう!」
こうして再び、風魔法でクリームを泡立て、カットした色鮮やかなフルーツと泡立てたクリームでスポンジケーキをデコレーションしたり、さらにスポンジケーキ以外にも定番のアップルパイやブルーベリーのタルト、チーズケーキなどを作っていく内に時間はあっと言う間に過ぎていった。
そうこうしてる内に、店舗の外で人々が行きかう足音や声が聞こえてきた。この店舗はケーキ販売に特化しているため早朝から開店せず、どちらかというと昼前に近い時間の開店となる。
「そろそろ、双子が起きて来る時間かしら……」
独りごちていたら、階段を下りる二人の足音が聞こえ、ひかえめな感じで調理場のドアがノックされた。
「セリナ様~」
「中に入っても良いですか~?」
「ええ、良いわよ」
私が返事をすれば、ゆっくりとドアが開いて可愛らしい新品のメイド服に着替えた猫耳メイド、ルルとララが姿をあらわした。
「失礼します……。って!」
「こ、これは!」