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薄紅色の布に包まれている物を開ければ、中には可愛らしいフリルがついた白いエプロンと、黒いスカートには内側に白いレースフリルがあしらわれた、モノトーンのコスチュームがあった。
「うわ~! 可愛いエプロンです~!」
「本当! 素敵です~!」
双子は目を輝かせている。彼女たちが普段、着ているメイド服は非常にシンプルでフリルやレースはついていないので、なおさらこういう可愛らしいデザインは物珍しいのだろう。
「うん、すごく良いわね。急に頼んだのに、本当にありがとうレイチェル」
「いいえ。ちょうど閑散期でしたし、むしろ仕事が入ってありがたい位で……。父もよろこんでいました」
「それなら良かったわ。今回、頼んだ魔石のカスを袋詰めにする仕事。在庫が減ってきたら、またお願いしたいんだけど大丈夫かしら?」
「ええ、もちろんです! ウチとしては大歓迎ですよ!」
今後もプロヴァト仕立屋で、保冷剤の袋詰めをしてもらえるという流れになり、ホッと一安心だ。何しろ店舗がオープンすれば、お店の運営だけで精いっぱいになり、保冷剤まで袋詰めする余裕など無くなるのは目に見えているのだから。
プロヴァト仕立屋の方も仕事が増えたことを喜んでいるというし、今回の件は双方にとって良かったようだ。私はレイチェルに重ねてお礼を言ってから、保冷剤と服を作ってくれた手間賃を支払って帰宅するレイチェルを見送った。
「じゃあ、レイチェルも帰ったことだし。二人とも、この新しいメイド服を着てみてくれる?」
「え?」
「この服って?」
大きな瞳をぱちくりさせながら小首をかしげる双子に、私も「ん?」と首をかしげる。
「店舗がオープンするに当たって、店頭に立つ売り子用に作ってもらったから、この服はルルとララの服よ」
「私たち用だったんですか!?」
「てっきり、セリナお嬢……。店長用の服かと……」
目をまん丸くして唖然とする双子は、驚きを隠せない様子だ。しかし、来店するお客さんが一番、目にするのは奥でケーキを作っている私ではなく、店頭で接客販売に当たるルルとララなのだから、彼女らを差し置いて私だけ仕事用の服を新調するのはありえない。
「基本的に、私は料理場にこもってケーキを作ってるんだから。店頭に出てる、あなた達用に決まってるじゃない」
「私達のために、こんな可愛いメイド服を用意して下さってたなんて……」
「うっ、嬉しいです~」
「ええっ、何も泣かなくても……」
「セリナ様……! 私たち、がんばります~!」
双子は新調した新しいメイド服が自分たちの為だと知り、感激して泣きながら私に抱きついてきた。私としては新店舗がオープンするわけだし、それにともなってユニフォームを新調しようと思いついたのは、ごく自然な発想だったし、実は宣伝広告を貼ってもらいにプロヴァト仕立屋へ行った際に偶然、白いエプロンを見かけた時に思いついたことだったりする。
そして本心は、猫耳のメイドに可愛いフリル付きのメイド服を着せてみたいという、個人的な趣味というか、願望みたいな物をそのままストレートに炸裂させてしまった結果だったりするのだが、感激してむせび泣く双子には、とても伝えられない。この事実は墓場まで持って行こうと密かに誓った。