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「ところで、ルルとララは商品に使用されてる材料の効果と効能、覚えてくれた?」
「はい! バッチリです!」
「イチゴには美肌効果と貧血の予防効果などが期待できて、ブルーベリーには目の疲れを癒す効果や身体の血行を良くして、病気をふせぐ効果が期待できるんですよね!」
「ほかにも、ブドウには疲労回復を促進させる効果や、肥満の予防効果が期待できるっていうのも覚えました!」
「うん。よく覚えてくれたわね」
ケーキを販売するためのショーケースの設備も整ったし、ルルとララは商品の材料にどんな栄養や健康効果があるかまで把握してくれてる。これなら安心して店舗オープンにのぞめるだろう。
あとはプロヴァト仕立屋に頼んでいるアレさえ届けばバッチリだ。そう思いながら、店の外に視線を向けると太っているオバさんと、ひょろっとした二人のオバさんが窓越しに店内を見ているのが視界に入った。何事かと思って、私は店舗のドアを開ける。
「あの……。何かご用ですか?」
「ああ、店内に人影が見えたから、もうお店をやってるのかしらと思ったのよ」
「このお店、オープンはまだなのよね?」
「はい。今日は店内で使う道具の確認などを行っていただけで、オープンはまだなんですが……」
困惑しながら答えれば、二人組のオバさんもその事実を知っていたようで苦笑した。
「そうよね。肉屋のエマさんに店のオープンはまだ先だって聞いてはいたんだけど」
「エマさんに、この店のことを聞いたんですか?」
「そうよ」
「ナールング肉店のお客さんは皆、知ってるんじゃないかしら……」
オバさんが何気なく発した言葉に私は驚がくした。
「え、ナールング肉店のお客さんが皆、この店のことを知ってるんですか!?」
「だって、エマさん『新しくオープンするケーキ屋の女の子が作ってくれたクッキーなのよ~』って言いながら、来るお客、皆に花とアヒルのクッキーを見せてるんですもの」
「エマさん、そんなことを……?」
目を丸くして驚いていると二人のオバさんは、ほがらかに笑う。
「私も、あんなクッキー見たことないから、どんなお店なのか気になっちゃったのよ」
「肉屋に貼られてた広告のケーキも美味しそうだったから、気になっちゃって」
「まだオープンしてないって分かってたけど、つい見に来ちゃったのよね~」
「そ、そうだったんですか……」
軽い手土産のつもりで持参したアイシングクッキーが思いの外、宣伝に一役買っていて驚く。そして、その後も何人か「もうお店やってるの?」「ケーキ店がオープンするのよね?」とご婦人方にたずねられ、噂好きな主婦層による口コミの威力を感じずにはいられなかった。