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『魔力の実』の苗に実がついたら、コルニクスさんに渡すという話をした後日、ケーキを入れるガラス貼りのショーケースは、コルニクスさんによって魔道具の保冷装置が取り付けられ、材料を保管する貯蔵庫にも同じく保冷装置が設置された。取り付けた魔道具を指さしながら、コルニクスさんは使い方の説明をしてくれた。
「この装置についてる氷の魔石に一回、魔力を注入すれば丸一日以上は保冷効果が持続する」
「ふむふむ、この白い石ですね。ここに触れながら魔力を注入すればいいのかしら?」
言いながら、氷の魔石に魔力を注入してみると、にわかに氷の魔石が淡く輝きだした。
「これは……」
「ああ、魔力が入ってくると光り出すんだ。今はまだ注入されてる魔力量が充分じゃないから白色だが、この石には特殊加工をほどこしているから、魔力が注入されていくにしたがって色が濃くなり水色から青色へ変化する」
「へぇ……」
「青色になれば、それ以上は魔力が注入できない状態だ」
「なるほど。青色になるまで魔力を注入すれば良いんですね」
集中して手に力を込め魔力を一気に注入してみると、魔石がその輝きを増して変色する。
「……あ、水色になってきた」
「何だと? そんなに早く、水色になる訳がないんだが……」
けげんそうな眼差しで、みけんにシワを寄せるコルニクスさんに私は内心、あせった。
「と、とにかく、これが青色になるまでやれば良いんですよね」
「ああ。毎日、決まった時間に魔力を注入すれば問題なく使えるが、魔力が無くなれば保冷効果も無くなる」
「分かりました! 魔力を切らさないように毎朝、決まった時間に魔力を注入しますね!」
「…………」
何か言いたそうな顔をしながら結局、コルニクスさんは何も言わず顔をしかめながら帰っていった。魔道具屋さんが帰ったのを確認して猫耳の双子メイドが、ひょっこりと顔を出してきた。
「へぇ~。これが保冷できる魔道具ですか~!」
「わぁ、本当に装置から冷気が出てます~!」
「あの悪者顔の人、本当に魔道具の職人さんだったんですね~!」
ショーケースに設置された保冷用の魔道具を見て、実際に冷気が出ていることを触って確認した双子は、その性能に感心しきりだ。
一回スイッチを入れる感覚で、保冷装置に魔力を入れれば、丸一日以上しっかり保冷ができる優れ物なのだから、本当に腕は確かな魔道具職人さんなんだと実感する。作られた道具と性能だけ見れば、目つきと口が悪いゴロツキか、魔王の手下みたいな人物が作ったとは、とても思えないだろう。