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「あら、セリナお嬢様。何を書いてるんですか?」
「ああ、これね。もうすぐ、この店がオープンするでしょう? その前に、あなた達に食材の栄養や効能、効果について頭に入れてほしいと思って書いてたの」
「食材の栄養?」
「効能と効果?」
小首をかしげる双子にうなずく。
「ええ。前に取り扱い予定の商品と材料について、書いた紙を渡したわよね?」
「はい!」
「商品の名前と材料、ちゃんと覚えました!」
「うん。それをふまえて、今度は使われている材料に、どういう健康効果があるのかを書いたの」
「健康効果ですか……」
「まぁ、ごく当たり前のことなんだけどね……。例えば、オレンジには疲労回復を促進させる効果があるわ」
「オレンジにそんな効果が!」
「知らなかったです!」
そういえば、双子には語学や数学など王立学園で習った勉強を教えたけど、食品の栄養素や効果については教えていなかった。ついでとばかりに言及する。
「あと、オレンジの旬は夏場だから、夏バテを予防したいと思ってる人にもオススメできるわ」
「おお!」
「他に、リンゴの場合は果実自体の栄養価も高いけど。血行を良くして、動脈硬化など血管が原因の病気を予防する効果や、美肌効果、ダイエット効果なども期待できると言われているわ」
「美肌!」
「ダイエット!」
ルルとララは年齢的に若いのもあって、何もしなくても肌はじゅうぶんキレイだし、ダイエットが必要な体型というわけでは無いが、やはり女の子ゆえに美容やダイエットには関心があるようだ。大きな瞳をきらめかせて美肌とダイエットというワードに食いついた。
「うん。商品を買うのを迷ってるお客さんに『健康効果』があるとを伝えれば、よろこばれると思うの」
「なるほど!」
「確かに!」
「まぁ、果実だけならともかく、ケーキには砂糖やバターとかも入ってるから、さすがに商品を販売する時、ダイエットを前面に押し出すわけにはいかないけどね」
「ああ、そうですね……」
「でも使用されてる材料に、どんな健康効果があるのか把握しておくのは販売員として必要なことだから」
「はい!」
「了解しました!」
いつの時代も、どの国であっても、健康や美容について人々の関心は高いはずだ。ただの『美味しいケーキ』よりも『健康効果があるケーキ』と客側が認識することによって、より購買者の満足度は高まるだろうし、双子たちも食材の効能や効果を把握することによって『自分は良い商品を売っている』という自信を持ちながら、積極的な店頭販売に取り組めるだろう。