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さっそく、頂いた氷魔石の削りカスが大量に入った重い木箱を持って、私は新店舗に戻った。
「ただいま……」
「おかえりなさい。セリナお嬢様!」
「夕食できてますよ~。って、何ですか、その重そうな木箱は!?」
目をまん丸くして驚く、ルルとララに苦笑しながら答える。
「これね、魔道具店のコルニクスさんから頂いたの」
「魔道具なんですか?」
「いいえ。これは削りカスよ」
「は?」
意味が分からないといった表情の双子にフタを開けて、木箱の中身を見せる。中には青い石の削りカスが山盛りでつまっている。
「本当に、カスですね……。しかも青い」
「これ、いったい何なんですか?」
「氷魔石の削りカスよ」
「な、なんでまた、そんな物を?」
困惑しながら、ルルとララが私に視線を向ける。
「生クリームや生のカットフルーツを使ってるケーキは、保冷する必要があるのは分かるでしょう?」
「はい、冷やしておかないと鮮度が落ちてしまうんですよね?」
「うん。お店でケーキを作って売る時、氷をつめた袋も一緒に渡せば良いかと思ってたけど、保冷剤があった方が便利だと思って」
「保冷剤?」
「この、氷魔石の削りカスを袋につめて魔力を込めれば一定時間、保冷効果があるんだって!」
「へぇ。これが……」
「氷だと時間が経つと溶けて水になるけど、保冷剤なら水になるわけじゃないから便利でしょう」
「ああ、なるほど。これをお客様が買ったケーキと一緒に入れておけば、家に帰るまで保冷できるんですね」
「そう! だから、この氷魔石の削りカスを小袋につめようと思ってるの」
「ちなみにどの位、小袋を作るんですか?」
「とりあえず、店舗の開店までに百個ほど用意したいと思ってるんだけど」
「百個ですね!」
「分かりました! あとで私たちが」
両手をグッと握りしめて、やる気をみなぎらせる双子に対して、私は首を横に振った。
「ううん。ルルとララはいいわ」
「え」
「セリナお嬢様が、お一人で袋詰めするんですか?」
「私たちも、お手伝いしますよ?」
小首をかしげながら、私の顔をのぞき込む双子に苦笑する。
「あ、違うの。よく考えたら、保冷剤を作る作業まで私たちでやるとなると、オーバーワークだなぁって思って」
「オーバーワーク……?」
「働き過ぎってことよ」
コルニクスさんに怒鳴られた後、帰り道で考えたが小袋を百個作るというのは、それなりの作業だ。新店舗のオープンまでそれなりに雑多な用事も多いのに、それに加えて内職までやらせていては双子も身体を休めるヒマが無いだろうと思ったのだ。
「セリナお嬢様。お気遣いは嬉しいですけど、百個くらいの袋詰めなら新店舗のオープンまでに何とかしますよ?」
「うん、ありがとう。でも保冷剤って新店舗がオープンしてからも、不足すると定期的に必要になってくると思うの」
「開店してからも……」
「通常の営業時間に店舗で働いてもらった後から、さらに保冷剤を袋詰めする作業をルルとララにさせる訳にはいかないから……。今の内に、別の所へ仕事として発注しようと思ってるの」
「別の所ですか?」
「うん。モチはモチ屋って言うし!」
「モチ……?」
不可解そうな表情を浮かべる、ルルとララに微笑みながら、双子が作ってくれた夕食を美味しく頂いた。