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「ダーク王子って獅子獣人の血を引いてるけど、普通に人間の姿よねぇ……」
「獣人の血を引いてると獣の姿にもなれるけど、日常生活で不便だから基本的に大多数が人間の姿で生活してるそうよ」
「不便?」
「獣の姿だと家のドアノブが上手く回せなかったり、サイフから金貨を一枚取り出すという日常動作すら、おぼつかないでしょう?」
「確かにそうね……」
肉球のついた手では授業中に本のページをめくることすら、ままならないだろう。
「日常生活では人間の姿だけど、本質的には獅子の伝統を重んじてるそうだから、私たちみたいな普通の人間からすると、びっくりするような獣人界の常識もあるわよねぇ。ハーレムとか」
「え、ハーレム?」
「セリナ、知らないの? 金獅子国の王様は後宮に複数の女性を住まわせてハーレムを作るのよ」
「えええ!?」
「人間の姿になれても、本能的にハーレムを作るっていうのは、獅子の世界では常識らしいわよ」
「そ、そうなんだ……」
言われてみれば以前、母が『獣人は自分たちの習慣や文化を優先して暮らしている』と言っていた。結婚しないなら気にならないと言っていたが、それはこういうことも含まれていたんだと思い至る。
「何でも『ハーレム』に複数の女性を囲い、その後宮に住む女性たちに子供を産ませるというのが代々、獅子王家の伝統なのだって」
「伝統……。ハーレムが」
「本当に知らなかったのね」
「ええ。獅子王家の伝統とか興味なかったから……」
「まぁ、国王に見初められて後宮に入らない限りは、関係ない話ですものね」
「そ、そうよね」
「でも、関係ありそうな人にもいるから」
「え?」
ローザの視線の先にはダーク王子がいた。そう、第四王子の彼が王位を継承することになれば、獅子国王としてハーレムの女性を囲うことになるのだ。
私たちの話が聞こえたのか、聞こえてないのか、タイムリーなことに取り巻きの男子生徒たちが興味津々という様子でダーク王子に質問しているのが聞こえてくる。
「ダーク王子が、もし王位を継いだらハーレムを好きに出来るんでしょう?」
「ああ。まぁ、王位は第一王子であるレオン兄上が継ぐことになるだろうけど、もし俺が王になったら、色んなタイプの美女をハーレムに入れてはべらせたいな」
「うわぁ。王族は良いなぁ。じゃあ、もし『聖女』が見つかったら、やっぱりハーレムに?」