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「これって、さっき削ってた?」
「ああ。コイツが氷の魔石だ」
「研磨してたのは魔石だったんですね……」
「そうだ。そして、この氷魔石の削りカスに魔力を込めると一定時間の保冷効果がある」
「一定時間の保冷効果って、量と時間はどの程度なんですか?」
「そうだな……。この量で魔力を込めれば、この店から街を出るまでの時間は保冷効果が保たれる」
「それだけ保冷効果があるなら、削りカスで充分です!」
「まさか、削りカスを引き取りたい奴が現れるとはな……」
コルニクスさんは何故か、ゲンナリした様子でうなだれた。しかし、これなら小型の保冷剤として、じゅうぶん使える。そうと決まれば、ケーキと一緒につめる事を想定しなければならない。
「じゃあ、魔石の削りカスを小さい袋につめて、小分けで売って頂けますか?」
「ハァ? このカスを袋につめるのか?」
「ええ。あ、お客さんが間違って食べないように、しっかりと密封した状態でお願いします!」
笑顔でお願いすると黒髪の店主は、やや首をかたむけながらジト目で私を見据えた。
「ほぉ……。いくつの袋が必要なんだ?」
「そうですね。とりあえず百個? いや、もっといるか……」
「は?」
「どの位、必要なのか分からないので……。でも、まぁ、腐るような物でもないですからストックとして、その位は最低でも必要かと……。あとは必要に応じて、追加注文を」
魔力がある人なら自力で氷魔法を使って冷やせるだろうから問題ないとしても、魔力が低くて保冷剤が必要な人がどの位の割合なのかが現段階では全く分からない。そして用意する保冷剤にお金がかかる以上、保冷剤もケーキと別料金の有料ということになる。
タダなら保冷剤が欲しいと言う人が多いだろうけど、有料なら欲しくないと言う人の割合の方が増えるかも知れない。特に今の時季だと気候的に絶対、保冷剤が必要なほど暑いわけではない。そんなことを思案していたら、眼前の店主が何故か、怒りの色を浮かべた瞳でビキビキと目元を引きつらせている。
「ふっざけんな!」
「えぇ……」
叫ぶと同時に大きな音を立てて、両手でカウンターの台を叩いた魔道具屋の店主に困惑する。しかし、そんな私の姿にコルニクスさんは、さらに怒りを爆発させた。
「こんなカスを何百個も袋につめる内職みたいな作業を、何で俺がやらなきゃいけねーんだ! おまえはアホか!?」
「で、でも、お金は出しますから……」
「どうせ、はした金だろうが!?」
「うっ、それは……」
そこを突かれると確かに痛い。しかし、無いソデはふれないのだ。どう説得するべきかと、私が視線をさ迷わせているとコルニクスさんは脱力した様子で肩を落とし、大きく息を吐いた。
「ハァ。もういい……。やる」
「え?」
「この魔石のカスはどうせ、ゴミだ。くれてやる……。木箱ごと持って帰れ」
「タダなんですか?」
「そうだ。袋詰めでも何でも、自分でやれ。……ただし、ショーケースと保冷庫の方はキッチリ金を取るからな」
「はいっ! ありがとうございます!」
こうして、コルニクスさんのご厚意で保冷剤の材料をタダで入手することができた。