表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/449

104

 いちごの果汁が入っていることを期待して『いちごミルク』を買ったのに、一滴も入っていないなんて……。私は涙目になりながら『いちごミルク』売りのおばさんの言葉に、理不尽さを感じずにはいられなかった。そんな私をレイチェルは気の毒そうに見ていた。



「セリナさんは知らなかったのね……」


「レイチェルは知ってたんだ」


「ええ。いちごミルクのピンク色は、私がさっき買ったコチニール由来の物だって知ってるわ」


「えっ! コチニールって、布の染料が入ってるの!?」


 私が驚いて唖然としていると、レイチェルは苦笑する。


「コチニールは布の染料だけど、食品の着色にもよく使われているのよ」


「そうなのね……。でも、大丈夫なのかしら。身体に悪い影響とか無いのかしら?」


「身体には害の無い天然の染料だから、そこは安心していいと思うわ。何百年も昔から使用されてるけど、食べてから重い健康被害が出たって話は聞かないし」


「そ、そうなんだ」


「っていうか、セリナさんも知らない内にきっと、コチニールを口にしたことあると思うわ」


「えっ!?」


「口紅とか」


「へぇ。化粧品にも使われてるのね……」


 確かに知らない内に口にしていたようだ。しかし、何らかの健康被害も出ないで長年、広く人々に利用されていたと言うことは安全性についてコチニールに問題はないようだ。


「ごくまれに肌の弱い人が、化粧品でアレルギー反応を起こすことはあるみたいだけど、ほとんどの人は大丈夫よ」


「そうなんだ……。食べ物の着色に使えるなら、私も買おう! おじさん、コチニール下さい!」


「はい、コチニールね。毎度!」



 さきほど、いちごミルクのジュースを飲んで分かったが、色はしっかりとついているのに、着色料の味はまったく感じなかった。それで食べても健康に問題が無いなら、着色料が必要な場合にそなえて、購入しておいて損は無いと判断したのだ。 


 染料屋の店主からコチニールを受け取った私は、思わぬ形で食紅が入手できてラッキーだったと口元をゆるませた。


 『いちごミルク』という名前の、着色された砂糖牛乳については思うところがあるが、結果として人体に無害な食紅を入手できたので良しとしよう。私はカップに残った『いちごミルク』を飲み干す。そんな私をレイチェルは複雑そうな表情で見ていた。


「セリナさん」


「ん?」


「ちなみにコチニールの原材料、虫って知ってる?」


「ぶはっ!」


 レイチェルの言葉に、私は飲んでいた『いちごミルク』を思わず噴いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ