ある日のマダム達
「ねぇ、ねぇ、いつになったらアンナちゃんをお嫁さんにくれるの?」
ある晴れた昼下がり、いつものごとく我が家に特攻してきた元ヒロインがいきなり爆弾発言を投げつけた。
隣で静かにお茶を飲んでいた旦那様がまたいつものごとくお茶を吐き出す。
「ゴッ、ゴホッ、ゴホッ…ダメだ、アンナは嫁にはやらんっ!」
「あら、旦那様?そんな事言ってたらアンナが行き遅れになってしまいますわ?」
「そうよー、それにうちのアランはお買い得物件よぉ。私に似て美形だし?旦那様の権力で騎士団入り確定だし?私に似て頭良いし?旦那様の実家の権力で爵位継げるし?私の娘になるなら、めちゃくちゃ可愛がるし?むしろお風呂一緒に入るし?むしろ一緒に寝るし?なんなら…。」
ものすごい早口で友がアピールしてきましたわ。
…途中から何やら妖しげな事言い出した挙句、私の方に視線を投げかけて誘われているような気配を感じますけど。
いや、私はもう一緒にお風呂入りませんからね?
「…おい、人の娘と嫁に狙いを定めるのはやめろ。それと、旦那随分な扱いだな?権力以外にも言ってやれよ。…褒めてやれよ。それにお前も何か言えよ。」
もう止まる気配が無かった友の言葉を旦那様が遮りましたわ。
同じ男性として、不憫に感じたのかしら?
ふふっ旦那様優しいわ。
「…うちにはネコがいっぱいいるから、一緒に遊んでもらえるし、癒される。—俺が…。」
「お前かよ!!アンナじゃなくて、お前が癒されるのかよ!!」
「うふふー旦那様は欲望に素直なのよねー。」
そこが気に入ってるんだけど。
って小声で付け加えたのを私にはバッチリ聞こえましたわ。
何だかんだ言っても、元ヒロインは旦那様の事好きなのよね。
微笑ましいですわ。
きっと、このお家に嫁げたらアンナは幸せになると思うわ。
でも…。
「アンナは昔から、アラン君も好きだけど、それ以上にお兄様の事が大好きなのよねー。…私に似て、一途を通り越して、思い込みが激しいところあるし…。」
そう、小さい頃の憧れで終わると思ってたのに、今だにお兄様大好きっ子だ。
ファザコンみたいなものかしら?と思ってたけど、どうやら違うみたい?
あら?そうすると、アンナが落としたい相手って…アラン君じゃなく、お兄様?
嫌な汗が背中を伝う。
え?ちょっと待って?
以前悪役令嬢の役割を聞いてきた事があったけど…。
続編っぽいものが始まったのよね?アンナの話では。
ヒロイン役の子が出てきて、アンナの事を悪役令嬢だと言ったらしいし。
で、多分アラン君は攻略対象者で。
だから、アラン君を取られないようにって思って、色気で落としなさいって言ったけど。
え?でも今アンナの好きな人は私のお兄様で…。
え?え?
私、まずい事教えたかしら?
自分の思考のポンコツさに嫌気がさしますわ。
ふふっ、お兄様、信じてますわ…。
娘の貞操、守って下さいね。
それと…。
元ヒロインの手をガシッと握って。
「アラン君に頑張ってアンナを落としてお嫁さんに貰ってあげてねって伝えて下さいませ!!」
「うふふー。任せてー。なんならそこの男捨てて、一緒に私のお嫁さんとして家にきてくれてもいいのよー。」
—ね、そうしましょ。
と言いながら、私が握った手を更に握り返してくれる元ヒロインを通して、本気でアラン君に頑張れと念を送ってみた。
他力本願だけど、お兄様を近親相姦ロリコンにするわけにはいかないわ。
見つめ合う、私と元ヒロイン。
元ヒロインから、私を剥がそうとする旦那様。
アンナと私が家にきてくれるなら、更に癒されるなと、嬉しそうな元ヒロインの旦那様。
それぞれの思惑が交差するお茶会は混沌としたまま幕を閉じた。