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C級勇者はどうやら逆ハーとかいう状況を手に入れた。  作者: 玉響なつめ


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72 知らされた、楽しくない現実

~ココマデのあらすじ~


異世界転移で無理矢理勇者とされた挙げ句「C級」と呼ばれ馬鹿にされた三ノ宮和子は異世界で死亡した。

そして何の因果か目が覚めると赤ん坊、記憶を持ったまま転生したと知る。

幸いな事に家族に恵まれスクスク育ち、一妻多夫制度が許される世界なので恋人関係となった狼人族のフェルと悪魔族のアリュートと共に、結婚資金を稼ぐこととその他諸々のために冒険者パーティ『菩提樹』と組む。

初仕事として祖母の紹介で竜人族の学者たちがかつて図書館だったという遺跡の探索に行くのでその護衛を担うのだったが、そこはなんとダンジョンに生まれ変わっていた。

危険ならば戻ろうと決めつつも進む彼らの前に次々と降りかかる災難と敵、そして司書だったという幽霊のミドリアーナの助けを得てさらに進むとそこには巨大な時計が奇妙な動きをし、そして見たこともないモンスターに一同は慄くのであった……

 足元からの揺れ、正体のまだわからない巨大な敵の姿、そして不和のある状態のグループを抱えているこの状態で探索はこのまま続行すべきなのか。

 正直なところ、私は戻るべきだと思った。思ってしまった。


 菩提樹(リンデンバウム)の初始動として紹介された仕事だ、切り上げるタイミングは依頼主である団長のバルバスさんに判断の権利がある。


「……バルバスさん」


 声をかけてみるものの、返事はない。

 視線は、天井に向いたままだ。


 得体の知れない化け物――ファンティッチェという子供向けの物語に出てくる化け物を知る竜人族だからこそなのだろうけれど、彼の視線は畏れと怯えで満ちてまま天井を見ていた。

 ミドリアーナさんに言わせるとそれは創世記のものだという話だけど、私は知らない。


(マッヒェルさんなら、知っているかもしれない)


 知っているからといって簡単に教えてくれないのが我らがセンセイだけども。


 私は彼に判断をしてほしかった。

 でも、今は無理そうだ。


「……フェル、アリュート、どうする?」


「前に進むか、退くか。そういうことか?」


「ええ。どうにも私たちにとって厳しい状況にあると思うの。探索するにしても、一度退いて、態勢を調えてから改めての方がいい気がする」


「……確かにね。でもそれは無理だと思うよ」


「無理?」


 アリュートの、否定する言葉に私は困惑する。

 そんな私に彼は優しく笑って首を横に振った。


「……イリスの魔法を使えば、確かに地上に戻れるだろうね。安全に。でも、それは使ってはいけないってマッヒェルさんに言われているだろう?」


「それは……でも、緊急時だよ?」


「僕はそこまでだとは思わない。だけど、上階に戻れるか、それが問題だね」


「どういうこと?」


「さっきの時計といい、上の階にいた時にその存在を感じ取ることもなかった巨大な敵、確かにイリスの言う通りおかしな状況だと思う。ということは、『僕らは望む階に戻れるのか』という保証がないってことだよ」


 フェルは考えることを私たちに任せているのか、周囲の警戒に集中しているようだ。


 アリュートの予想では、先ほどのファンティッチェとやらが上層にいたなら、とっくの昔に自分たちは狩られる対象だったのではないかということ。

 あれほどまでに強大な存在が、わざわざ気配を隠すだろうか?

 狩りのためならば可能性はあるだろうけれど、先ほどわざわざ姿を見せたのだ。その可能性は低い。


 で、あれば〝ファンティッチェは何らかの要素で突如上層に移動した〟可能性、或いは〝上層と我々が認識しているものが別階層である〟という可能性だ。


「ダンジョン化しているんだ、あらゆる可能性がある。修練用のものじゃない、自然に変化したものなら何が起こっても不思議じゃない。そうだろう?」


 微笑むアリュートは私を安心させようとしてくれているのだと思う。

 でも、だからこそ私は納得できない。


「それなら尚のこと、魔法で脱出した方が」


『あのお……それは無理じゃないでしょうか~』


 ミドリアーナさんが翼を上げておずおずと言った様子で私たちの会話に混じってきた。

 彼女は本当に申し訳なさそうにモジモジとしつつ、言葉を続ける。


『ダンジョン内に変化があったかどうかとかは私にはわからないんですけど~……でも、あのぉ……とりあえず、司書として申し上げるとなるとですね、あのう……』


「どうしたんだい?」


 ミドリアーナさんの歯切れの悪い様子に、レラジエさんも首を傾げる。

 私たちはジッと彼女の言葉を待つ。


 私たちの視線を受けて、彼女は胸元をトントンと叩いて見せた。


『館内の状況を知らせる魔法の道具があるんですけど……と言っても、近場のものだけなんですけど……ほら、備品が壊れたとか火災がとかそういうのを知るためなんですけどお……』


「うん」


『それで今、確認したら……この部屋、下の階に行く扉しかないんですう』


「え?」


 私は目を瞬かせる。

 今、ミドリアーナさんが変なことを言わなかっただろうか?

 なんでそんな便利な魔法の道具があるならもっと早く教えてくれなかったのかと思わなくもないけど、そこじゃない。


 だって、私たちは上から来たのだ。

 上から来たのに、来た道がないというのは奇妙な話じゃないか。

 

「……下の階に行く扉しか、ない?」


『はい……その上、防犯装置が作動しているみたいで』


「ぼうはん、そうち?」


『転移系の魔法が使えないようになってます~、泥棒対策の……』


 本当に申し訳なさそうに『今でも防犯装置が生きているなんて思わなかったんですう……』と呟いたけれど、私はそれに対して何の言葉も返せないのだった。

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