illusion is mine - 7
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シュタンが歩く道は、祭りが行われている大通りとは別次元のような雰囲気だった。人の姿がまったくと言っていいほどになかった。日当たりも悪く、影と同化してしまっているような気分にさえ襲われた。
あの男性の言う通りには来てみたが、本当にこの道であっているのだろうか。歩けど歩けど公園らしき場所が見えてこない。昨日と似たような状況ではあるが、心の持ち様はまるで真逆だった。
シュタンは時刻を確認する。時計の針は三時半を過ぎていた。
「ヤバイな……このままだと間に合わないかもしれない」
シュタンは歩くスピードを速めた。あの男性と話した場所が第十一区の入り口付近ならば、第十区に入るのはざっと考えても、四時頃になるだろう。果たしてそれでコンテストに間に合うことが出来るのか? いや、間に合わせなければいけないのだとシュタンは足を前に出していく―――。
ん? そういえば、コンテストの開始時刻は何時なのか。シュタンはそれを知らなかったことに気付いた。レベンに間に合うようにすると言った手前、それを破っては人として駄目だろう。それが分からないと目安の時間など計算が出来ないじゃないかと、あの時の受付の若者に対して文句を言わなければいけない。そうだ、あの若者は態度があまりにも酷かったな。あいつはどんな教育を受けて育ったのだろうか? あのように育ててしまった親の顔が見てみたいものだ。ああ、親と言えば―――ってそうじゃない!
そんなくだらないことを考えている暇など今は無いのだ。しかし、こんなときに限って何故こんなにも気になってしょうがないのだろうか。
シュタンは無我夢中で走り始めた。巾着袋は激しく揺れる。何も考えたくは無い。今はあの場所へと向かって進むしかないのだ。すると、何かが足に当たった感触があった。まもなくすると、「カランコロン」と乾いた音が聞こえてくる。
シュタンは急に立ち止まり、右を見た。乾いた音はすぐに鳴り止み、シュタンが作った砂埃は風に流されていく。
そこには、昨日と同じ白と赤に塗られた枠組みがあった。奥のほうでは大きな木が聳え立っている。シュタンはそれを確認し、中へと入っていった。号砲のような音が遠くから聞こえてきた。
名前も知らない野草が溢れて錆びたチェーンに繋がれたペンキの剥がれたブランコは風に揺れる。公園の真ん中には動くことを忘れてしまった時計台。そして、奥のほうではアナリーゼに聳え立つ塔のような大きな木が一本。シュタンはその木陰に立つ。足元には紫色の花びらが落ちていた。そこから辺りを見渡しても、求めるその姿はどこにもなかった。
見当違いだったのだろうか。やはり、自分を曲げてまで非科学的なことを信じなければ良かった。紫色の花びらを踏みつけながら、昨日も座ったベンチに行こうと反対側に歩みを進めた。その時に、さっき走ったせいなのか、腰に結び付けていた巾着袋がストンと地面に落ちた。
「依頼品だと言うのに……何をやっているんだ俺は!」
すぐにベンチに座って巾着袋からトランペットを左手で取り出し、意識を落としていく。
「ふぅ……どうやら大丈夫みたいだ」
シュタンは巾着袋の中にトランペットを入れようとすると、風がふわっと吹いた。地面の花びらが優しく舞い上がる。
「よかった、直ったんですね」
聞こえてきた
シュタンは声が聞こえた方向に顔を向ける。
そこには、聳え立つ大きな木の下で立っているクスナの姿があった。




