#scene03-13
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朝一番でギルドでの手続きを終わらせ、すぐに混雑し始めた街を抜け出した一行は、バイクで一気に北上しメリザンド法国の副都・ドローテへと入った。
ここでは、シャノンの元部下たちと合流する約束があるが、どうやって会うのかは不明だ。連絡がないことを見ると、たどりついてない可能性もあるが、おそらく向こうから何かコンタクトがあるだろう、と考えていたところ、門を潜ってすぐに見覚えのある少女が現れた。
「お待ちしていました」
「何名残りましたか?」
「15人です、シャノン様」
「わかりました。どこかで全員と会いましょう。ナギ様、よろしいですか?」
「ああ、オレも同行する――だが、アーリックとアイヴィーを街の中に置いておくのもな……」
「我々の拠点が街の外にあります。この辺を荒らしていた盗賊の元拠点ですが」
「じゃあ、そこへ案内を頼めるか」
「――アリン」
「了解しました」
ドローテの東門から出て、少し行ったところにある破棄された砦。そこが現在の彼女たちの拠点だった。
元々盗賊たちが使っていたという事もあって、あまり清潔とはいえなかったため、一歩入って顔を顰めたシャノンが何も言わずに清浄魔法を掛ける。
「ふむふむ、こうして全員を見たのは初めてだったな……暗殺者10人、隠者3人、盗賊2人……レベルは最低で5、最高で7か……」
『!?』
ナギの独り言の様な呟きにアリンたちが固まる。
「で、そっちの女の子たちは?」
部屋の隅で固まっている3人の少女をみながらナギが言う。
「彼女たちは、盗賊に攫われてきたようでして……」
「こんな大都市の傍でここまでの規模の盗賊のアジトが見逃されてるのもおかしなことなんだけどな。リュディ、悪いけど話が終わるまで奥に連れて行っておいてくれないか」
「わかりました!」
「……この現状、どうやら、旧教と新教の諍いに冒険者や傭兵が大量に駆り出されてるようで、人手が足りてないみたいですね」
「心の拠り所のために戦争するってのはオレにはよくわからん話だな。アーリックはどうだ?」
「こちらは信仰の中心がアデライダではなくヘルミオネだからな。形式も違ってくる」
「旧教派の方が劣勢で、何とか戦力を集めようとお布施を掻き集めているようですね。サイアーズは法国への足場作りのためにかなりの献金をしていたと思います。枢機卿の1人と話を付けたようなことを兄が話していましたから」
「なるほど――まあ、この話は置いておいて、アリンたちが今後どうするかという話だったな?」
「私としては、普通の冒険者なり傭兵なりをして生計を立てていく方が良いと思いますが」
「まあ、それがベストだろう。だが、“太陽”を抜けた以上は傭兵をするのは少し辛くないか」
「そうですね……」
「シャノン様。私たちも話し合ったのですが、ここにいる15人をシャノン様に雇っていただくというのは可能でしょうか」
アリンたちの表情は真剣だが、シャノンの表情は暗い。
「私には貴方たちを雇えるような財力はありませんよ」
「しかし、私たちにはあなたに助けてもらったという恩があります。ここに残った者たちはほとんどが孤児です。帰る場所もありません」
「それならば、“太陽”を抜けなければ――と言うのは、私の身勝手ですね。ナギ様、どうしましょうか……」
「え?オレに聞くの?」
「私の主は貴方様ですから」
「オレがどうこう言って聞く奴らでもないでしょうに。シャノンを慕って集ってるんだから」
「いえ、シャノン様が主と認めたような御人ならば、私たちも従います」
「……行過ぎた忠誠心だな。まあ、いい。じゃあ、お前ら――」
『………………』
「――ギルドを組め。別に殺すことに特化したジョブじゃないんだから。その能力を活かせるところに生かしてもらう。黒き新月の傘下ギルドとして諜報専門のギルドを組め。名前は――そうだな、昏き星夜でどうだろう」
「彼女たちを雇っていただけるのですか?」
「ああ、報酬は……まあ、とりあえず、頼んでた仕事の出来を見てから決めようか?」
「は、はい!」
アリンが分厚い紙の束と筒に入った誓約書のようなものをナギに手渡す。
「ある程度の読み書きはできる、と」
「それは、私が教え込みましたからね」
「基本だからな――しかし、かなり面倒なことになってるな。これは、ジーナに早めに伝えた方がいいかもしれん。こっちの誓約書は?」
「婚姻届です。統轄ギルドから拝借してきました」
「いい仕事だ。今回の報酬として金貨3枚。調査に参加してもので分けてくれ。生活費や装備はこちらで全部持つ。それ以外は仕事に対しての特別報酬としていくらか支払う形になると思う。どうだろう?」
「生活費、というと、どこまでの物を指しますか?」
Lv.6の盗賊の少女が尋ねる。
「食費や衛生管理に必要な代金は確実に持つ。服飾に関しては、仕事用のもの以外は出せないかもしれない。住居の代金は……他国の情報集めとかを頼むことが多くなりそうだから、まだ何とも言えないが――具体的な数字で言うと年間40~50万Eぐらいは一人に出すつもりだ」
「ナギ様、予算大丈夫でしょうか?」
「正直、キツイ。だが、情報は力になる。ここで優秀な奴らを囲っておくのは結構重要だぞ。ああ、もちろん、契約の履行はもう少し落ち着いてからになると思う。現状で家も持ってない奴がまともに支払えるとは思わんだろうし。それまでは帝国で冒険者に成りすまして情報集めをしてもらおうか」
「……暗殺の仕事を命じることはありますか?」
「場合によってはあるかもしれないが、今のところは考えていない」
「私はそれで構いません。皆は?」
アリンの問い掛けに全員が肯定の意思を込めた視線を送る。
「ナギ様の提案に乗せていただこうと思います」
「ならば、アリン。お前をギルドマスターに任命する。あとで手続きをするとして、自己紹介が必要か?」
「できれば」
「オレはナギ・C・シュヴラン。で、こっちが、アーリックとアイヴィー。奥で待機してる女の子がリュディヴィーヌ」
「シュヴラン――ということは、ナギ様は貴族、なんですか?」
「正直自覚はないし――王国のクーデターに手貸したりしたし――爵位剥奪されるかもな。ははは」
「笑い事ではないですよ、ナギ様。ナギ様には貴族でいてもらわないと、いろいろ面倒なことに――側室の件とか」
「それ狙ってるのお前だけだろう、シャノン」
「私も狙っていますよ、ナギさん」
「おい――まあ、冗談はさておきだな。とりあえず、ここからの行動を決めたいところだが、シャノン、食事の準備をしよう。空腹だ」
「そうですね。アリンたちも手伝いなさい。料理できたでしょう?」
「多少はできますが……」
「シャノン様ほどでは……」
女性陣が尻込みする中、ナギは先ほど買ってきていた野菜や、備蓄してある食べ物を眺めながらメニューを考える。
「肉系が少ないな……おい、男衆」
「「「「はい」」」」
数少ない男たちを集めて近くの森へ肉を狩りに行かせる。
「アーリック、悪いが、リュディを呼んできてくれ。シャノン、スープを頼む」
「何にしましょう」
「かぼちゃのポタージュ」
「わかりました」
一度台所から離れたナギは朽ちかけのテーブルを破壊し、残骸と手持ちの屑アイテムを組み合わせて広いテーブルを作る。
「アイヴィー、外に仮設のコンロ組むから機巧式書いてくれないか」
「ふふ、私の才能をそんなことに使うのはナギさんだけですね、きっと」
「戦争用の兵器作るよりいいだろう」
「ええ。まあ、そっちも作ってみたくはありますが」
「それは研究施設を立ててからだな」
「期待して待ってます。それで、どういったものを?」
「簡単に味付て焼くだけになるかな。やっぱり、野外で手早く調理する場合は携帯コンロがあれば便利だよな。火起して消すの面倒だし」
「案外そういう物臭が発明につながるのかもしれませんね」
そう言いつつ、ナギの作った外枠に特殊なインクで機巧式を描いていくアイヴィー。
「その序盤のループは何の意味があるんだ?」
「ここであえてループさせることで起動直後に一気に温度を上げることができます」
「なるほど……だが、燃費悪くないか?」
「使うのがナギさんなら大丈夫かと」
「まあ、そうだけどさ」
「お館様!猪を3頭仕留めました!」
「おう、ご苦労――ってまだ、屋敷持ってないんだが」
「いえ、給金を頂く身ですから」
「じゃあ、解体するから手伝ってくれ。その後は、甘辛いタレで焼いてパンと一緒に食う」
「最高ですねそれ」
「アリンたちはあんまりそういうの好きじゃないみたいですけど、オレたちは男なんで食いやすい方が好きですね」
「じゃあ、お前らは野菜と一緒にパンにはさんでしまえ」
「「「「わかりました」」」」
「もう打ち解けたんですか、ナギさん」
「まあ、一緒に美味い物食ったら仲良くなれるさ」
「ですよね。オレ、貴族って嫌いですけど、お館様はそういう雰囲気ないから好きです」
「おい、ディル。お館様にその言葉遣いはどうかと思うぞ。後でアリンに怒られる」
「オレは言葉遣いとかきにしないが、他の貴族の前では気を付けろよ。というか、15人いて男4人だけか?」
「いえ、あと2人います。変装――というか女装してまして」
「ああ、あの二人か……案外濃いよなお前ら」
「お館様たちほどではないです」




