#scene03-05
人の視線の合間を縫ってその場から消えるシャノンをみおっくた後、なにやらカウンター付近でもめているアーリックの元へと向かう。
「おーい、アーリック。すまん、用事終ったから行こうぜ」
「ああ、わかった」
「待て!なんだ貴様は!私はこの魔人に用があるのだ、あとにしろ」
「今日の晩飯はオレが作る予定なんだけど、アーリック、何か食えないものある?」
「特にないな」
「貴―様―ら―!話を聞けええええええ!」
「何?うるさいな。聞こえてるよ。無視してんのがわかんないかな。ねえ、受付のお姉さん」
「ふええ!?私に振るんですか!?」
「いや、だって、オレもアーリックもこの太ったオッサンがなんなのか知らんし」
「確かに、オレに聞かれても答えられないな」
アーリックは案外小さないたずらに乗っかってくれる質なので、相手を煽るのがやりやすい。
ちなみにこれがシャノンやクレハだと一発で相手がブチギレる暴言を平気で吐くので割とやりにくい。見た目が綺麗な分、相手の心を抉る威力も高まるのだろう。
「ええっと、この方は、シャルトル領主デルガルト伯爵、です」
「あー、あのもうそろそろルーツに攻め落とされる街か」
「ええ、はい。法国とルーツとの話がまとまればそうなるかと……っは!?私は何を!?」
「いや、お姉さん。それ自爆だからこっちは責任取らないよ?」
「おのれ、下民共が!おい、騎士たちよ、不敬罪でこの3人をひっとらえろ!」
「私もですかぁ!?」
「おいおい、オッサン。不敬罪なんて、そんな馬鹿みたいなこと言ってないで、当初の目的思い出してみろよ」
「目的………はっ!?そうだ、貴様ら私の息子を殺しただろう!騎士たちよ、この場で斬首だ!」
「なるほど、今日潰した盗賊の親はお前か」
ナギはカウンターの上にまだ乗っていたギルドカードの中から一枚を抜き取り、読みあげる。
「クレイズ・デルガルト。伯爵家次男、賞罰:誘拐・殺人・強姦。お前の息子というのはこのクズの事か?」
「なっ!?にを、言っている貴様!?」
「ちなみに、あんたは……クーゲイル・デルガルト――ほう、賞罰:誘拐、強姦、殺人、人身売買とあるが、今ここで死ぬか?」
「ふざけたことを!」
「悪いが、オレはそういう魔眼を持っていてね―――『アイヴィー・サイアーズの身柄回収しました』――おっけ、こっちも片付いたら向かう。さて、騎士の皆様」
自分のギルドカードを見せつけながらナギが言う。
「オレもアーリックもこのオッサンのバカ息子を殺したことを認めよう。ただし、それは、カミサマも認めた上での討伐でしかない。そして、このオッサンのギルドカードなり、貴族の登録証なりにはしっかりと犯罪歴が刻まれているはずだが、お前らはどちらを斬る?」
「ぐっ……」
剣を抜いてこちらに向けていた一番立場が上であろう男が、ゆっくりと剣を降ろす。
「じゃあ――デルガルト伯爵、この事は本国で問題にさせていただきますので。アーリック、“剣と車輪”によって報告書を帝国に送るぞ、たぶん王国が持ってるアーダ海での利権ぐらいは取ってくれるだろう」
「なるほど、貴族の位というのはそうやって使うものか」
「まあ、誰が本当に強いのか考えずに喧嘩吹っ掛けるとこのオッサンみたいに人生終了するから気を付けろよ?」
「ああ、一つ勉強になった」
「あとは、そうだな。オレからの直接の制裁としては、向こう10年間うちのギルドに関係する一切の商品を王国には売らない、ということをここに宣言しておく――という事で、お姉さん聞いたね?」
「聞いた、です」
「じゃあ、そうい事で」
「待て、貴様。何を言っている?貴様如きがどうこう言ったところで、何も起こらんぞ?」
「は、伯爵様!どうか控えてください!そして頭を下げてください!」
唯一事態を把握している受付嬢。
理由は彼らの名前を知っているから。
「その方のお連れ様にレヴェリッジのお孫さんがいらっしゃいます!」
「それがどうした!私はサイアーズに出資している人間だぞ!?レヴェリッジなどという歳だけ食っている企業など相手にする価値はない」
「しかし、その方は帝国貴族で――シュヴラン男爵です!」
「たかが男爵であろう?爵位と言っても最下級」
「まあ、王国の伯爵位と帝国の男爵位だとだいたい価値的には等しいけどな」
「喧しい!大体、シュヴラン男爵家などという家は聞いたことも―――シュヴラン?」
「うん、シュヴラン」
「いや、よかったよかった。王国の皆様はレヴェリッジが不要とおっしゃる。まあ、そこまで言うなら、レヴェリッジの技術も人間も利権もすべてオレが買い取ろう。何、気にするな。既に交渉は終わっているし、資金もある」
「待ってくれよ、男爵様!」
固まる伯爵と騎士たちを差し置いて、野次馬をしていた中から一人冒険者がこちらに声をかける。
「オレたち金がない人間はサイアーズの無駄に高性能で高い機巧装置なんて買えないんだぜ?レヴェリッジがなくなったらオレたち王国の冒険者と傭兵は死ぬぞ!?」
「なるほど……まあ、早めに亡命しなよ」
「そんな、ことを言われてもだな……行く土地もないし」
「オーシプとかいいんじゃないかな。あとは、ルーツとか」
「男爵殿、そのぐらいにしてくれるかな?」
奥のテーブルに座っていた若い男が立ち上がり声をかける。
「やっと立ち上がったか、王子様」
「いやはや、思った通り、私の身分まで筒抜けだね……ひとまず、騎士よその男表で処刑せよ」
「はっ!?はい!」
伯爵ではなく最早ただの罪人として扱うと王族であるこの人物が決めた。
騎士たちは逆らう権利を持たないし、当事者の伯爵も控訴する権利を持たない。
ギルドの外に引きずられていった伯爵は、何やら喚いていたが汚い悲鳴と共に静かになる。
「さて、あの騎士たちはどうしてくれようか」
「5人中3人犯罪歴あったから全員自害でいいだろう」
「君は中々過激なことを言うな」
「お前の弟二人よりはマシだろう、市民派の第一王子様」
何が起きているのか理解が追いついていないのか、周りの人間はフリーズしている。
「私としても、駒を減らされるのは本意ではないのだけど」
「あんな死兵いてもいなくても盤上は変わらないだろうよ。さて、立ち上ったという事は、何か言いたいことがあるのか?」
「そうだな……ここでは、少し話しにくい。ギルドマスター、奥の部屋を借りたい。それと、同席してくれ」
「!……かしこまりました!」
カウンターの後ろからこちらを除いていた豊かなひげを蓄えた男が、礼をしながら奥の戸を開き、ナギ達を導く。
応接室のような場所へ通されるとナギはすぐにソファに腰掛けた。
「あの、一応、私は王子なんだけどね?」
「いやいや、実権も握ってないのに何を言うかね王女様」
「「!?」」
ナギがにやりとしながら言うと、王子改め王女とギルドマスターの方がびくりと跳ねる。
「王女……なるほど、男にしては体つきが少し変だなと思っていたがそういう事か」
「そ、そこまで、違っているか!?」
「安心しろ、そんな理由で分かるのはアーリックだけだ。オレにはわからん」
「そうか?」
「戦士としての観察眼か……ヴェルカ人というのはすごいのだな」
「なるほど。で、性別偽って王子様やってるのはいいけど、真実知ってる王族からはほとんど放置されてて、庶子だなんて噂が広まってるせいで貴族も味方に付かないし、肝心の母上である正室サマは毒殺されてる、と」
「君が王都に入ってきたのは昨日だったと思うのだが、いつの間にそこまで調べたんだ!?」
「まあ、気にするな。あ、先に行っておくけど、現政権の次にあんたの弟たちが皇位に座る様なことがあれば、さっきギルドで言ってた脅し、実行するからね?」
「そ、その場合、王国が他国から大きく置いて行かれるような気がするのだが……」
「ギルマス、頑張れ」
「……儂の様な老骨にあまり無理をさせんでくれるか」
「まあ、その話は置いといて、ここじゃないと話せない本題は?あ、アイヴィー・サイアーズ攫ったのはオレだよ?交渉の結果、ギルドに加入してくれることになったというのが正しいけど」
「えええ!?いや、その話ではない――というか知らないぞそんな話」
「王子、こっちを見られても困ります。儂も把握してませんでしたから」
「なんだ誘拐の嫌疑をかけられてるんじゃないのか」
ナギはどこからか取り出したグラスでフルーツジュースを飲み始める。
もちろん、アーリックの前にもそれはおいてある。
「えーっと……その、本題なんだが」
「ああ」
「依頼があって」
「依頼?」
ギルドマスターが一枚の紙を差し出す。
それをナギが受け取り、内容を確認したところで王子――ヴァレリー(仮名)が告げる。
「――継承権を持つ者以外を殺さずに城を落としてくれないだろうか」
「「は?」」
前代未聞のクエストが始まる。




