#scene 03-03
「さすがジェームズさん!魔人が一撃で吹き飛ばされていった」
「そうだろう。サイアーズの最新型だ。試し撃ちに使ってもらって魔人も光栄であろう」
「街の中での私闘は禁止です!」
「るせぇよ!これは討伐だよ」
「ああ、受付君。ドアなら弁償するから気にしないでくれたまえ」
「ナギ様。いかがなさいますか」
「気にする価値もない。怪我はないか?」
「いや、大した威力でもなかった。気にするほどでもない」
「なるほど、アンタ中々強いな。名前は?」
「アーリックだ。アーリック・クラウジス。出身は……まあ、見てわかると思うがルーツだ」
「ヴェルカ人ってのはみんなアーリックと同じほどに身体能力が高い物なのか?」
「クロヴ人よりは高いようだが……そういえば、貴方も黒髪を」
「ああ、悪い。オレ出身共和国なんだ。ヴェルカ人の血は入ってないと思う。あと、ナギと呼んでくれ。ナギ・C・シュヴラン。で、こっちがシャノン、それとリュディ。この毛玉はミトだ」
「ではナギと呼ばせてもらう。すまないな、足を止めてしまって」
「気にするな。それより、いろいろ聞いてみたい話があるんだが、夕食を一緒にどうだ?」
「ありがたい誘いだが、あまりいい店だと俺は基本的に入店拒否されると思う」
「あー、大丈夫かな?」
「大丈夫でしょう。そのようなつまらないことを言い出せば私直々に潰してやります」
「おーけー。じゃあ、行こうぜ――ああ、まだ清算してたんだっけ?」
「ああ、そうだった。少し待っていてくれ。俺も君に興味があるし、話してみたい」
「おいおい、そこの黒い奴。魔人の仲間かなんかか?」
こちらを不機嫌そうに見ていた3人衆の一番脳の容量の少なそうなやつが突っ掛かってくる。しかし、ナギは一切興味を向けることはなく。
「そうと決まれば、おーい、お姉さん。コイツの清算早くしてあげてくれる?」
「は、はい!」
「無視してんじゃ―――!?」
建物の中へアーリックと共に入ろうとするナギの肩を掴もうとした三下の手首をナギが取る。
「――無視してやってんだ。感謝しろよ?」
ナギが放った殺気に、男の腰が抜け地面にへたり込む。
野次馬達の中にもその殺気に中てられた人間が数人いるし、リュディは少し驚いてミトを強く抱きしめたため、毛玉が小さく悲鳴を上げた。
その間にアーリックは数枚の金貨を受け取り、ギルドカードを受け取る。
「待たせたな」
「じゃあ、行こうぜアーリック」
「待ちたまえ」
無駄に豪奢な服を着た男が、ナギを手で制する。
「君たち、この魔人と何を話すことがあるというのだ?しかも、僕の部下を傷つけておいて、ここを素通りしようなんて思ってないよね?」
野次馬全員が、お前はどの口で部下が傷付けられたとかほざいてるのか、と心の中で唱和し、ギルドの中にいた冒険者たちは金だけしかとりえのない雑魚が死にに行った、と判断した。
だが、彼らもこの街に住む住人。道楽で冒険者をしている貴族である彼には何をすることもできない。
「――悪かったな。オヤスミ」
「は?」
ナギが手を振った瞬間。
大量の魔法式が3人を包み、魔法らしき何かが発動。
意識を失い、その場に倒れる。
「……何をした?」
「まあ、気にするな。こういう奴らが一番嫌いなんだ」
「ナギ様、彼ら、何時間持つでしょうか」
「5分で発狂死コースだろ」
うがあああ、と酷くうなされた声が聞こえる。
「しかし、アーリック。その剣。ずいぶんくたびれているように見えるが」
「ああ、まともな鍛冶屋が無くてな。手入れもできない」
「そこまで面倒なことになってんのか……ちょっと、貸してくれるか?」
「構わないが」
ナギが受け取った剣を一度鞘から抜き、刃に沿って一撫でする。
無数にあった傷や、刃毀れが一瞬にして消えていく。
「とりあえず刃は直したけど、これはもう買い換えた方がいいな」
「やはりか。ああ、すまない。料金は」
「そのぐらい、気にするな」
数分でついた先の料理屋は外見からしてかなり高そうだったが、シャノンの顔を見るとすぐに腰が低くなった案内役がすぐ席に通してくれた。
注文も席につく前にシャノンが適当にしたらしく、すぐに飲み物が運ばれてきた。
「先ずは自己紹介だな。オレはナギ・クレセント・シュヴラン。帝国には一度も行ったことがないんだけど、帝国で男爵位を持ってるらしい。まあ、偉ぶるつもりはないから適当に接してくれ」
「シャノン・レヴェリッジと申します。ナギ様に拾っていただく前は“太陽”におりました。今は、ナギ様の第二夫人候補をしています」
「え、えと。リュディヴィーヌ・ルシェです。この子はミトです」
「きゅう!」
忘れていたがペット入れて良い店なのだろうか。
あと、シャノンの自己紹介は素通りしても良いのだろうか。
「アーリック・クラウジスだ。一応、前ルーツ帝国ではクリストル家に仕える家系だった。騎士位を持っていたらしい。まあ、次男だからあまり関係ない話だが」
「クリストル家と言いますと」
「“魔王”エヴラール・クリストルか」
「ああ。エヴラール様には会ったことはないが。それよりも気になっていたのだが、ナギは、」
「アウグスト・シュヴランが師匠兼義父だ」
「なるほど。ならば、俺の妹を救ってくれたという錬金術師は君か?」
「いやそれは兄だ。残念だが兄貴はルーツでそのまま戦死した。墓はクロイツあたりに作った気がする」
「わかった。だが、シュヴランにはいくつか恩がある、と父も言っていた。あと、墓の方は機会があれば参らせてもらう」
「まあ、オレの手柄じゃないから気にしないでくれ」
ナギが少し残っていたワインのグラスを空け、隣のシャノンがすぐに注ぐ。
「それで、聞きたいことがあるようだが。このような店で食事をするのは久方ぶりだから、その礼も込めて俺が知りえる情報ならばいくらでも話そう」
「まずは、あれだ。直球で言うけど、体調べてみてもいい?」
「というと……俺を解体するとかそういう話か?」
「いや、そんなことしないけど。魔法で解析をな。なんか、ヴェルカ人は稀に魔力暴走を起こして暴れるって聞いたことがあるから。もしかして、クロヴ人と違うところがあるのかと思って」
「死なないで済むならば特に問題はない。好きに調べてくれ。原因がわかれば、対策もできるかもしれん」
「じゃあ、ちょっと視ることにする」
解析を行えば、ステータスの様な大雑把な情報から人体の構成まである程度の事がわかるのだが。
「――狂?」
「きょう?」
「いや、すまない。でも、なんとなくわかった気がする。だが、少し時間をくれ。まとまったら対応策も考えよう」
「ありがたい」
肉料理をシャノンに礼儀作法を教わりながら笑顔で食べているリュディ。
それと、その足元でもらった屑野菜や肉片を猛然と食べている毛玉。
「ナギ様、ワインは?」
「ああ、貰うけど。ちょっとペース速くないか」
「別にナギ様を酔わせて襲わせようとか思ってませんから」
「思ってるのか」
「大変だな、ナギも」
「うわ、そういう反応は久方ぶりで涙が出そう。そういえば、アーリックはどうしてこっちに出てきたんだ?正直、対応は悪いだろう?」
「だが、家に居ても仕事が無くてな。他の文化を見て見たいというのもあったが」
「なるほど……ああ、ものは相談なんだけど、うちのギルドに入らないか?」
「……俺なんかが入っても利益はないだろう?」
「いやいや、強いじゃん」
「それほどなんですか?」
「ああ、見てみ。それに少し話してみて面白い奴だと感じたからな」
ナギが手渡したモノクルの様な機巧装置をつけて、アーリックの方を見るシャノン。
「剣術師Lv.8ですか。ナギ様と一緒にいるとすぐに強者と出会いますね」
「なるほど、その道具は人の能力を見ることができるのか」
「ああ、見て見るといい。情報は力だ」
シャノンからモノクルを借りたアーリックはナギ、シャノン、リュディの順に見る。
「凄まじいレベルだ……」
「うちのギルドは制限Lv.8だからな。まあ、リュディは珍しい職業で未成年だから特別加入という感じだ」
「なるほど。ならば俺も条件は満たしているという事か」
「きゅい!」
テーブルの下のミトがアーリックの足に体当たりする。
「ん?」
「あ、僕の事も見て、と言ってます」
「ああ、悪かったなミト」
そちらに視線を向けると、自慢げな様子のミトが目に映る。
「ミトロン……こんな生物がそうなのか」
「どうやら幼体らしい。成体になれば白竜に変わる」
「お前もすごいのか」
「きゅう!」
「すぐに答えを出せと言わないが、ギルドの件、考えてくれ」
「余り悩むのは得意じゃない。一晩中に結論を出そう」
「わかった。なら、明日……って、宿はどうしてる?」
「それなら問題ない。裏通りの見た目怪しい宿に部屋を取っている」
「ああ、もしかしたら宿一緒かもしれんな……」
「しかし、そういった宿も結構数ありますよ?」
「そうなのか。びっくりだ」
「表の宿は専ら頭の悪い貴族たちから巻き上げるための設備ですからね」
「なるほど」
ナギは残っていた料理を片付ける。
ナギがフォークを置くと同時に、皿が片付けられ、デザートが出てきた。
「なんか。思ってたよりきちんとしたコース料理だった」
「満足いただけてよかったです」
「でも終始ウェイターさんが怯えてたのはなんでだ?」
「ナギ様、それは気のせいです」




