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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#02 銀の暗殺者編
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#scene 02-14




ナギがコルトーで逃げ回っているちょうどその時間帯にクレハはミロスラヴァ共和国の首都・ブロッキの街に着いた。

普通なら5日ほどかかる道のりだが、ナギから受け取った機巧式バイクを使っての強行軍だ。


この街ですることは、キーリーに会うことと、ナギから頼まれている買い物(主に食材)。

それと、アウグスト・シュヴランの墓に御供えを置きに行くぐらいだ。


「リスティラで少し悠長に観光を楽しみすぎたかしら」


すでに空は暗く、街の雰囲気も昼間のそれとは異なっている。

先程から頻繁に酔っぱらいに声をかけられるが、その度に、石畳に沈む人間が増えるだけ。

そんな調子で街を行きながら、キーリーが借りている部屋まで進む。


キーリー・シュヴランはいわゆる職人街と呼ばれるエリアの端に部屋を借りて生活している。

アウグストからいくらか遺産的なものを継いでいるので、金が無いわけではないが、元々孤児の彼女はそれほど派手な生活を必要としなかった。


目的の部屋までたどり着くと、戸を叩く。


「なんや?こんな時間に…………って、クレハ!どうしたん?こんな時間に。というか、うちの依頼はどうなったん?」

「とりあえず入れて、キーリー」

「ああ、そうやった。先座ってて、今お茶淹れるから」


キーリーがパタパタと台所の方に消えていく。

どうやら湯は沸かしている最中だったようで、すぐに戻ってきた。


「これ、最近ブロッキで流行ってるハーブのお茶なんよ」

「香りはいいわね」

「そうやろ?それで、こんなに早く戻ってくるとは思わんかったから、ビックリしたわ」

「その件だけど、会えたわよ」

「ほんまに!?こんなに早かったってことはリスティラ辺りに居ったん?」

「いえ、彼とはガルニカで会ったわ」

「そんな秘境からどうやって2週間ほどで?」

「まあ、それは追々説明するとして、とりあえず連れてはこれなかったけど……」


クレハは腕輪からナギの時計を取り出す。


「その腕輪……それに時計は」


クレハから手渡された時計を開き、そこに"IX"の文字とナギ・C・シュヴランの名前を確認する。


「ほんまに会えたんや……それで、うちの義兄さんはどこに?」

「爵位の事伝えたら、ちょうどいいからこれから東回りで帝国に行くって。落ち着いたら、共和国まで来てもいいって言ってたけど」

「なるほど、よー考えたら爵位のある国にいた方が生活楽かもしれんなぁ……」

「私もブロッキを出たらナギに合流するために帝国に行くけど」

「そうなんかー……って、なんで!?」

「それは、色々あって」

「色々って何!?」


キーリーが混乱し始めるが無視して話を続ける。


「そういえば、ナギは貴女に会ったことがあるっていってたわよ?」

「え?うそぉ……まてよ、ナギってどっかで聞いたことある気がする…………」

「アウグストさんが生きてるときに1回ブロッキを訪ねたって。その時に会ったみたい。素性は明かしてなかったみたいだけど」

「それや!なんや、義兄さんてナギ兄のことやったんか……よかった変な人やなくて」

「まあ、あの人も充分変な人だと思うけどね」

「ところで、ナギ兄はこの先どうするって?」

「ギルド立ち上げたから、帝国まで行ったらそっちに住むって」

「うちも帝国まで行って面倒みてもらおかな……」

「いいんじゃない?貴女もギルドに入ってナギの錬金術を学べば?」

「それもええかも。うちは薬系の知識ばっかり教わったから、機巧式の技術が師匠程度しかないねん」

「それで、普通は充分じゃないの?」

「そうとなったら善は急げや!明日ギルドに登録して、ブロッキを出よ!」

「思い切り良すぎて心配になるわ……」

「正直、ブロッキは師匠の墓がある以外に思い入れはないしな」


キーリーが断言する。

クレハが茶を啜って一息つく。


「登録って、できるのかしら?」

「基本的に申請だして、ギルドマスターが認可すれば発行されるとおもうけど?まあ、手続きすればサブマスターにもその権限与えることができるはずやけど」

「そんな手続きしてた記憶無いし、やっぱりナギの認可待ちになるわね。統轄ギルドに寄るかしらあの男」

「まあ気づいてくれるの待つしか無いんちゃう?通信手段が民間にも降りてきてくれればいいんやけど」

「カメラも高いし、発展の仕方がなんか中途半端ね」

「それを何とかするのが錬金術師(うちら)やったり、機巧術師の仕事なんやろうけど……そういえば、クレハ。晩御飯食べた?」

「グラシアを出る前に食べたわ。一時間ほど前かしらね」

「今信じられへん言葉が聞こえたけど、まあ、それも含めて明日や。もう遅いし、ねよ」

「そうね。今更だけど、泊まっていいの?」

「かまわへんよ。ベッドはなんか知らんけど2つ、3つあるし」





翌朝。

クレハはキーリーよりも早く起き出し、朝食の準備をしていた。

その辺りに置いてあった食材を片っ端から使ったためやけに豪華な朝食となる。


「やっぱり、なんか調子にのってやり過ぎちゃうのよね」

「……おはよー、クレハ。なんや、ええ匂いするけど……て、また豪華な朝御飯やなぁ」

「ごめんなさい。少しやり過ぎたわ。半分は昼食用に包みましょう」

「そうやな。それて、クレハの持ってる異様に攻撃力の高そうな包丁はいったい何?」

「ナギからもらったの。本当は鍛造で創りたかったらしいけど」

「いやいやいや、十分やって。これ以上精度上げて竜でも切る気なん?」

「魔力の刃のをつければこれでも竜ぐらいきれるんじゃないかしら?」

「そんなんもう包丁とちがうよ……」


キーリーになぜか呆れられながら朝食を食べ、一先ず統轄ギルドへと向かう。

案の定、キーリーの加入申請はナギの許可待ちということになった。そして、クレハは食材の買い出しをするために市場に向かう。


「ちなみに、予算は?」

「ナギからは聖貨1枚ぐらいなら使ってもいいって言われてるけど」

「師匠もなかなか金銭感覚狂ってたけど、ナギ兄もなかなかやな」

「まあ、食料はいくらあっても困らないし、腕輪のお蔭で保存は容易いしね」

「そうなんやろうけど、お金使うところ間違ってへんか?まあ、うちも美味しいもの食べられるのはうれしいけど……」

「メンバーが10人ぐらい増えても大丈夫なようにたくさん買い込まないと。帝国で買うと値段が上がるものを優先して買わないとね」

「それやったら、向こうの市場に商業用の販売店があるからそっちいこ」

「へぇ、そういうのあるんだ」

「うちも実験用の薬草とか毒草とか仕入れるのに使ってるから」

「なんか物騒なこといった?」

「気のせいや」


市場ではキーリーの鬼のような値切り交渉によって、予算内で何年分の食料だと思われるほどの量を購入し、それをクレハが片っ端から腕輪の中に収納していくために非常に目立つこととなる。

これだけ買えば輸送業者を使うだろうと、交渉の準備をしていた商人たちを全員愕然とさせる。


「キーリーのお蔭で、予定より多く買えたわ」

「えへへ、こういうことなら任せといて!それで、次どうするん?」

「私はあとはアウグストさんのお墓にナギから頼まれてるもの供えに行くぐらいだけど」

「そっか、じゃあ統轄ギルド一応確認して、街でる準備してから師匠の墓にいこか。どうせ街の出口の方やし」


そういうとキーリーはまっすぐ統轄ギルドへと向かう、と見せかけて向かいにある商業ギルドへと入る。そして、10分ほどで出てくる。


「ごめん、ちょっと部屋解約してきた」

「別にこれぐらい構わないけど、荷物とかは?」

「家を出るときに全部入れてきたよ」


そういうと左腕の銀の腕輪を見せる。


「貴女も持ってたのね」

「師匠から貰ったんや。師匠が着けてた腕輪もこの中に入ってるけど、うちじゃ中を見ることはできんからナギ兄に渡さんと」

「そういえばあの男が作ったんだったわね……じゃあ統轄ギルドに寄りましょうか、たぶんまだ申請は通ってないけど」


しかし、その予想は裏切られる事となる。


「え、通ってるの?」

「はい。イネス王国リュリュ支部で許可が出されました。それと、サブマスターの権限が変更されていますのでカードの更新をお願いします」

「わかったわ」


クレハが黒いカードを渡し、それに続いてキーリーも青のカードを手渡す。


「しかし、黒かぁ。忌み色を敢えて使うのがナギ兄らしいなぁ」

「黒は便利よ。闇に紛れられるし」

「便利なんかなぁ、それ。それにしても、リュリュって、王都に行くのにえらい遠回りしてへん?」

「何か目的があったのかもね。リュリュにはレヴェリッジがあるし」

「なるほど、発明品を売り込んですごい契約取り付けてそうやな」


実際はそれどころじゃないのだが。

5分ほどで手続きは完了し、受付に担当者が戻る。


「それではこちらキーリー・シュヴランさんのギルドカードになります」

「ありがとー」

「こちらはクレハ・ヒューゲル=シュヴランさんのギルドカードと、更新されたギルドメンバーの一覧になります」

「ありがとう」

「ちょちょちょっとまって!今なんて!?」

「ギルドメンバーの一覧……「その前や!」クレハ・ヒューゲル=シュヴランさんの「それや!」え?」


困惑する受付嬢を他所にクレハに詰め寄る。


「いったい何があったらそういうことになるん!?」

「ナギと結婚したの」

「なるほどー……って、そんなん今まで言わんかったやん!っていうか出会って数日で結婚って正気なん!?私がいうのもなんやけど、師匠(あの人)の弟子やねんから、まあまあ頭おかしいと思うで!?」

「そんなこと言われても……別れて気づいたけど思ったよりあの人に惚れてるのよね私」

「そんなんクレハのキャラと違うやん!」

「というか、私を何だと思ってるの?」

「男なんかには全く興味ない堅物やけど?」

「貴女とは1回話し合う必要がありそうね……」


笑顔のクレハから放たれる静かな怒気に建物にいる全員が凍りつく。


「そ、その話しは後でゆっくり聞くとして、ちゃんとうちの名前入ってる?」


露骨に話を反らすキーリー。

クレハの持つ紙を覗き込む。


「ナギ・C・シュヴラン、クレハ・ヒューゲル=シュヴラン、キーリー・シュヴラン、シャノン・レヴェリッジ……?リュディヴィーヌ・ルシェ……?」

「あの男、少し目を放したら新しい女引っ掛けてるわね……」


クレハの怒気がナギの方へと向かう。


「……やっぱり同行した方がよかったかしら」

「というか浮気してる訳ではないんやから……まあ普通に考えたら、賢い人ほどナギ兄みたいな優良株はほっとかんと思うけど」

「まあ、いいわ。籍を入れてる限り私が一番であることは変わりないし」

「すごい自信やなー」

「あの人夜すごい強いから正直一人二人側室がいてもいいかも」

「なんか兄嫁がポロっとすごいこと口走りよった……」

「それでは、気を取り直してお墓参りにいきましょう」


クレハは持っていたどこからともなく小さな銀色の箱――いわゆるジッポライターといわれるアイテムを取り出すと、書類に火をつけた。


「わ、何をしだすん!?」

「一応、機密書類だし」


すべて燃えきる直前に手を放し、炎は宙で燃え尽きる。


「……怒ってる?」

「怒ってないわ。ギルドメンバーを増やしたいとは聞いてたし。まあ、帝国にたどり着いてメンバーが全員女だったりしたら叩き斬るかもしれないけど」

「ナギ兄、大丈夫かなぁ」


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