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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#02 銀の暗殺者編
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#scene 02-02


十数分歩いて、目的の門までたどり着く。

この時間に到着する人間が少ないからか、それとも、こちらがわの門はまともに利用されていないからなのか、門兵たちは呑気に欠伸などしていた。


「ほんとに、大丈夫かよ、この街」


実際、王国からオーシプ方面に向かう人間は少ない。

しかし、他国と隣接した街の、その隣国側の警備がこの程度で大丈夫なのだろうか。

この調子なら、帝国軍は簡単に制圧できるのではなかろうか。


「わ、お前なんだこんな時間に!?」

「いや、ちょっといろいろあってね。それより、盗賊捕まえたから置いてくね」

「はぁ!?ちょ、まて、お前」


ナギが包帯まみれの頭領を捨てる。

その頭ではなぜか毛玉が自慢げに胸を張っている。


「おい、これ例の領主様の……」

「まずいんじゃないか、コレ」


なにやら、ひそひそと話始めた門兵たち。

とくに、身分証の提示など求められなかったので、不要なのだと判断して、なかに入ろうとすると、


「待て待て待て待て、お前なに勝手に入ろうとしてんだ!?」

「いや、もう行っていいのかと思って」

「そんなわけないだろう!それよりも、こいつ一人だけか?」

「いや?縛って捨ててきた。もう魔物に食われて死んでるかもね」

「はぁ!?ちょ、まて、行こうとするな。身分証、身分証だしてくれ」

「最初からそう言えばいいものを……」


ナギが黒いカードを門兵の方へと放る。


「なるほど、聞いたことないギルドだな……」

「まあ、立ち上げたのつい最近だしな」

「とりあえず、一緒に詰め所まで来てくれるか?」

「嫌だけど?」


ナギはカードを引ったくると、何事もなかったように歩き始める。


「不当逮捕には屈しないのですよ、っと」

「きゅい!」


じゃあ、と手を振る。

向こうでは何かを叫んでいるが、気にする気はない。

街はかっきがなく、商店に並んでいるものも非常に品質が悪い。


「なんとも、酷いありさまだなぁ、さすがにガルニカよりもマシだけど……」

「おい、兄ちゃん!少し早いが昼飯とかどうだ?」


屋台のオヤジが、こちらに声をかける。

なにやら焼き物を売っているが、あまり美味そうではない。

……というか、何の肉なんだろうか。


「んー、いいや。それよりも、この街に来たのは初めてだけど、昔からこんな感じなのか?」

「んー、そうだなぁ……もう30年ほどになるけど、ここ数年でもっとひどくなった感じかな……」

「それはどういう……」

「んー……、俺の口からは言い難いな……」


ナギはいくらか銀貨を投げ渡す。


「そこを何とか」

「そうだな……」


オヤジが手招きをすると、小声で告げる。


「今の領主様に代わってからだな……最近は王都の方からの視察も金で丸め込んで、だいぶん好き勝手してるみたいだ。なんとかっていう傭兵団を雇ってやがるらしい……」

「なるほどな……それで、街の活気のなさだが、やっぱり、税金が重いのか?」

「だな。こんな鳥の屑肉で作った串焼きでも銀貨2枚も取らなきゃならん」

「ほえー、大変だな」

「それに、まともに騎士の警備が機能していないせいで、治安はひどいな。盗賊たちがうろついてるから、まともに商人たちの荷物が着かないのもある」

「ああー……、まあその盗賊なら大丈夫だと思うが」

「ん?どういう意味だ?」


オヤジが首をかしげたとき、街の中心側から数人の男たちが談笑しながら歩いてくるのが見えた。


「……あれが、領主様の雇った傭兵だ。悪いが話しはここまでだ、眼を付けられたくないからな」


オヤジがこちらから視線を逸らし、無関係を装う。

こちらも、迷惑をかけるつもりはないのですぐに歩き始める。

すれ違う瞬間にこちらに視線が向くが、


「おいおい、見ない顔だな」

「あー、旅をしててな。こんな街、すぐにでも出る予定だが」

「そうか、面倒事は困る。さっさと出て行け……ところで、その毛玉はなんだ?」

「ん?ああ、これか」


頭の上に乗っているキュウに傭兵たちの視線が移る。


「なんか、さっき拾った。欲しいならやるが」

「きゅう!?」

「……まあ、いい。出るならはやく出て行けよ」


歩き去る傭兵たちを見送る。

おそらく、門の方へと向かうのだろう。


「さて、と。早々に出るか、こんな街」

「きゅう?」

「あんまり、良い予感がしないんだよな……」


すると、今まで歩いてきた方向から数人の足音が聞こえる。

足音からするに急いでいるように思える。


「はぁ……やっぱり」


現れたの先ほどの傭兵たち。


「戻ってくるのがはやいよ」

「悪かったな。さて、貴様を雇い主の所まで連れて行く」

「え、いいよ。別に」


ナギが断る。

そして、相手は額に青筋を浮かべる。


「貴様に拒否権があると思うか?」


敵は武器を構える。


「……なるほど、初めて会ったな。“蒼き太陽”か」

「なぜ、わかった?」

「まあ、いろいろあるのよ。それで、領主様がオレになんの用があるんだ?」

「ふむ、まあ、お前というか、領主様が用があるのはその頭の上の毛玉なのだが」


再び、頭の上のキュウに視線が集まる。


「なんだ、やっぱり持ってくか?」

「キュ、キュウ!?」

「ああ、それで済むなら良いんだが……」


傭兵の男の1人が、ナギの頭の上の毛玉に手をかける。

そして、引っ張る。


「ぬう!?離れないぞ!?」

「うん、なんか、離れないんだよこいつ」


そういうとナギが頭の上の毛玉をひょいと持ち上げる。


「なんか魔力を結合させてるみたいだが、というか、この毛玉いったいなんなんだ?ウサギ?」

「いや、知らないか?神獣ミトロンだ。その動物を従えることができれば世界の覇者になれると言われている」

「マジでか。お前そんなすごい生き物だったのか」

「きゅう!」


毛玉が自慢げに胸を張る。


「まあ、別に覇者になるつもりはないからいらないんだけど」

「きゅうう!?」


ナギが毛玉を正面の男に手渡そうとするが、一向に離れる気配がない。


「何のつもりだお前」

「きゅう!きゅ、き、きゅう!」

「ダメだ、全然わかんねェ」


ナギは一つため息をつくと、毛玉を頭の上に戻した。


「まあ、とりあえず……」


そういうと、脚に力を込める。


「逃げるか」

「きゅい!」

「おい、待て!」


一応それなりに整備されている石畳の上をかける。


「待てと言われて待つバカがいるか!?」


しかし、傭兵たちの動きは予想よりも速い。

さらに、向こうは銃を構えている。


「止まれ!」


銃が弾を吐き出す。


「うわ、あぶね」


足を狙って撃ちだされた、弾丸をジャンプで躱し、バランスを崩しながら着地する。


「ところでお前、逃げられると思ってるのか?」


リーダー格の男がそう告げる。

目の前にはこの街の東門、しかし、扉を閉じられ、前には兵士たちが銃を構えて並んでいる。


「うはー、さすが大陸最強の傭兵団。抜かりないね」

「さて、おとなしく来てもらおうか」


頭にキュウを乗せたまま、両手を上げたナギは男たちに連れられ、屋敷へと向かった。


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