#scene 02-03
男たちに連れられ、先ほどまでいた街の雰囲気とは似合わないほどに豪勢な屋敷へとやってきた。
中に入ると趣味の悪さは全開で、至る所に金の装飾品がある。
「趣味が悪い屋敷だな」
「雇い主に言ってくれ」
その後も、ナギは果敢にコミュニケーションを取ることに挑戦したが、男たちは無視を決め込む。
無駄に長い廊下を黙々と歩いていく。
「なるほど、王国からオーシプ側に出る奴なんて早々いないから、見栄を張るにしても東門側だけ栄えさせておけばいいというわけか」
「何を言っている?さあ、ついたぞ。今夜の宿だ」
「何々……って、地下牢感がすごいんだけど」
「何を隠そう、地下牢だ。安心しろ、飯は持ってきてやる」
「わーい……」
廊下に不似合な鋼鉄の扉の奥、石の階段をしばらく降りたところにいくつか鋼の檻が並んでいる。
「貴様、魔法の心得は?」
「あっても、あるって言わんだろう」
「それもそうだな。おい、魔封じの錠を付けろ」
リーダー格の男が後ろにいた男に命じる。
「見たところ武器も機巧装置も持ってないみたいだな」
「まあ戦闘系じゃないものでね」
「それでは、盗賊たちを倒せた理由がわからんぞ」
「運が良かったんじゃね」
「……もういい、牢に入れておけ」
男たちによって適当に牢に投げ込まれ、石の地面の上を転がる。
向かいと右隣の牢には数体の骨が転がっている。
「もうちょいまともな隣人が欲し片所だけど……さて、どうする毛玉」
「きゅい」
「牢の鍵も手錠の鍵もアイツらが持っていっちまったからなぁ……お前1人で行けるか?」
「きゅう……」
「無理なのはわかった。機動力ないもんな、お前」
魔封じの手錠とは、エクトル鋼に魔力の流れを阻害する魔法式が練り込まれた手錠で値段は張るが早々壊れるような物でもないので各地の警察組織などに配備されているという。
「そうだ、毛玉。お前、魔法で壊せるか?」
「きぃ、きゅきゅ、き、きゅう……」
「やべ、意思疎通ができないの忘れてた」
「あ、あの……攻撃魔法は使えない、って、いってます」
突然の声に左隣の牢を見る。
「おお、この毛玉の言葉がわかるのか?」
「え、あ、はい。視えるん、です」
「なるほどな」
年齢は10歳ほどだろうか。
その割にはすこし背は高いように見えるが、あまり健康状態はよくなさそうな少女が隣の牢に入れられていた。
その瞳は淡く輝いているように見える。
「魔眼ぐらいなら使えるのか?」
目を凝らす。
少女の名前は“リュディヴィーヌ・ルシェ”で職業は農民だった。
しかし、魔法の才はあり、年齢は13歳。
体調が悪そうに見えたが、暗いせいであって肉体面には特に問題はないようだ。
「御嬢さんは、リュディヴィーヌ・ルシェさんで合ってるな?」
「え、……なんで私の名前を」
「おにーさんはこれでも賢者の弟子だから何でも御見通しなのだよ。いつから、ここにいるんだ?」
「えっと、あの、2週間ぐらい前に村が焼かれて、お姉ちゃんと一緒に連れてこられて、それで……」
「なるほど、大変だったな。辛いなら答えなくていいが、お姉さんは、」
「お姉ちゃんはもう……いつもご飯を持ってきてくれるメイドさんが、こっそり教えてくれたの」
「どうやら考えてたよりひどいことになってるみたいだな……ああ、ごめんな辛い事聞いて」
リュディヴィーヌはそれっきり黙り込んでしまい、再び沈黙が流れる。
彼女の顔色を見るに、一応は食事は与えられているようだ。簡易ではあるがトイレなども設置されている。この世界の牢屋としては上々だろう。
一つ問題があるとすれば、
「寒いな……地下だからか」
本格的に冬が始まれば間違いなく凍死するだろう。
「リュディヴィーヌ、この毛玉抱いてな。ぬくいから」
「え」
頑なに離れなかった毛玉はあっさり手から離れ、リュディヴィーヌの腕の中に納まった。
「きゅう!」
「さてさて、オレは脱出でもするかな」
ナギがどうにか抜け出そうと、周りを確認する。
錬金術は魔法よりも細かな魔力操作がいるのでこの状態では使えない。
「そうなる無理やり魔法使う方がいいか……」
腕輪から機巧装置を取り出す。
「上手くいけばいいんだが」
魔力を込めようとしたまさにその時、階上から足音が聞こえた。
「なんだ?」
「シャノンお姉ちゃんが来たの、かな」
「リュディヴィーヌのお姉ちゃんじゃないよな?」
「……うん、メイドさん。ご飯持ってきてくれるの」
「なるほど」
コツコツ、と石の階段を下りる音がする。
急いで腕輪の中に機巧装置を片付ける。
「リュディ、お食事を持って来ました。それと、もう一人のお客様にも」
「お客様という割にはずいぶんいい待遇なことで」
「あら、満足頂いているようで」
微笑むメイドを視る。
そして、黒い笑いを浮かべながら告げる。
「“太陽”のシャノン・レヴェリッジ中将閣下が、わざわざ牢の世話ですか」
「っ!?」
一瞬で眼光に殺気を纏い、ナギを睨みつける。
「貴方は、何者ですか?」
「さて、だが、お前らの雇い主に言伝を1つ、わたくしは“オーシプ駐在の帝国軍幹部に”知り合いのいる“帝国貴族”だから、すこしは接し方を考えろよ、ってな」
嘘は言ってない。だが、所詮は男爵位。軍が動くかどうかは不明だ。
「……お伝えしましょう。リュディ、その毛玉を一回おいて、お食事をどうぞ」
「………うん」
「きゅう?」
毛玉がシャノンを見上げる。
「なにか?」
「自分の分はないのか、って、言ってる」
「……後程お持ちします」
シャノンはナギの分の皿を置くと一度地下牢を出て行った。
「お兄さん、太陽、って何の事?シャノンお姉ちゃん、軍人さん、なの?」
「まあ、今は気にしなくてもいいさ。というかオレこの手でどうやって食えばいいんだよ」
「きゅう!きゅ、きゅう」
「じゃあ、ボクが食べてもいいか、って……」
「いいぞ、どうせ食えないし」
運悪くといっていいものか、本日の献立はシチュー(のようなもの)だったため断念せざる負えなかった。
「せめてリュディヴィーヌみたいに拘束が前なら何とかなったんだろうけど」
ナギの前におかれた皿の中身は毛玉が食いつくしている。
食欲旺盛なことで。
すると再び、足音が聞こえる。
「申し訳ありませんが、一つ確認を」
「オレにか?」
「ナギ・クレセント・シュヴラン男爵様で間違いありませんか?」
「……まあね」
「旦那様がお会いになるそうです」
「断ってくれていいケド」
「……お連れします」
シャノンがそう告げた瞬間、先ほどの男たちが現れ、牢からナギを引っ張り出した。
「仕方ないから会ってやらんこともない」
「いいから歩け」
石の階段を昇る。




