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ヒダカアローズ2  作者: 快速ナイトネリウム53号
第1章「侵攻」
9/17

VIII(坂東)


@坂東帝国埼玉県川口市川口航空基地―第11分隊隊員室

2月12日坂東標準時刻(=九州標準時刻)1503時

《――本日14時45分、南九州臨時政府は事態レベルを最高の5まで引き上げ、日本連合軍の派遣を要請しました。南九州臨時政府の首都、鹿児島にいるレポーターの桜井さんに映像が繋がってます。桜井さーん!》

 テレビの映像が局のスタジオから現場に変わり、マイクを持った中年のレポーターがしゃべりだす。

《はい、桜井です。現在、鹿児島市の南側にいます》

《桜井さん。現在の状況はどうなんですか》

《はい。現在、鹿児島市では桜島を占領後、海を渡ってきたクラックゥとの戦闘が行われており、避難する人で道路がごったがえしています》

《避難する人のルートは?》

《はい。2つのルートに分かれており、西の日置市などへ避難するルートと南の枕崎市へと避難するルートがあります。また、――》

 レポーターが現状を説明しているところで部屋のドアが開く気配を感じた北 アスカは思わずドアの方を振り返った。

 ドアの前には第11分隊隊長の谷田ノリヒサ少佐が立っていた。

「すまないが転属命令がでた。北大尉、また隊長代理をまかせることになる」

 谷田は前振りなしにいきなり話を切りだした。

「……へ?」

 一瞬、北は何のことだかわからずにまじまじと谷田のぼんやりとした顔を見つめてしまった。

「また109歩兵団が再結成されることになった」

 谷田は苦笑しながら北を拝むような仕草をする。

「…………」

 その内容があまりに唐突すぎたのとその仕草が意外すぎて北は言葉がでない。

 1度解散した109歩兵団が再結成されるなんて想像もしなかったし、北が知る谷田はそんな仕草はしなかった。109歩兵団に出向する前と後では谷田の様子がかなり違うのだ。

「大尉をまた書類仕事に戻すことになってしまった。――隊長代理になると自由に飛べなくなるからな。すまない。大尉の空を奪ってしまった」

 今度は谷田が深々と頭を下げた。

「……なんか悪いものでも食べたんですか?」

 うん、絶対そうだ。絶対なんか悪いものを食べたに違いない。

 北はそう決めつけることにした。

「……悪いものは食べていないぞ。たぶん」

 谷田は苦笑しながら(ふところ)からなにかを取り出し、北の手に握らせた。

「…これは?」

 北が手を開いてそれを見ると、第117師団のマークをしたバッチだった。

「隊長章だ。約2時間にここを発つ。――すまないな。後を頼む」

 谷田は北の手に隊長章を置くと、くるりときびすを返し、部屋からそのまま出ていった。

「…………」

 北は無言で手の上の隊長章に目を落とす。

 本来、隊長章は隊長代理には渡されない。だから谷田は北海道に発つときは渡してこなかった。

 しかし今回は渡してきた。

(…なぜ、渡してきたのだろう)

 理由はよくわからない。もしかしたらないのかもしれない。

 隊長章はほのかに温かかった。



@坂東帝国埼玉県入間市―入間航空基地

2月12日坂東標準時刻1507時

「信じられない……」

 坂東帝国軍航空戦闘部第117師団第18分隊所属の高幡イリハ兵長は少し前に受令した命令を思い出してげんなりとした。

 ――発令:坂東帝国軍航空戦闘部第117師団司令部

 ――受令:坂東帝国軍航空戦闘部第117師団第18分隊所属、高幡イリハ兵長

 ――右のものに日本連合軍九州方面軍第5航空集団第109歩兵団「ヒダカアローズ」への出向を命じる。なお、現地までの移動は本日1730時に川口航空基地を離陸する輸送機に搭乗して行うこと。

「まさか、あの『ヒダカアローズ』に出向になるなんてなぁ……」

 そもそも、解散されたはずの「ヒダカアローズ」が再結成されること自体が寝耳にウォーターだ。

 しかも、2時間程度で荷物をまとめて川口基地に移動しないといけない。これでは同じ第18分隊の仲間や親に連絡する時間もない。

 命令を受け取ったときはあの「ヒダカアローズ」に自分も加われることがうれしくて狂喜乱舞したくなったが、時間がたつにつれて不安になってきた。

「自分でも、戦えるんだろうか……」

 「ヒダカアローズ」は南九州で戦うという。いま、南九州は日本列島の中でもっとも激戦が行われている地域だ。そんなとこに、実戦経験のない新米の自分が行って、しかもたった9人で東北の巣を破壊した強者ぞろいの部隊でまともに戦えるのだろうか。足を引っ張ったりはしないだろうか。――自分の実力で、クラックゥに立ち向かえるのだろうか。

「なに不安になっているんだ高幡イリハ!やるっきゃないだろう!」

 高幡はその不安を心の隅に押し込め、頬を叩いて自分に気合いを入れる。

 不安になっていたってどうしようもないのだ。命令は拒否できない。もう行くしかないのだ。


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