IX(九州)
@九州連邦共和国鹿児島県志布志市―志布志港、関西汽船フェリー「さんふらわあ きりしま」甲板上
2月12日九州標準時刻1416時
時間が1時間ほどさかのぼるが、九州連邦共和国鹿児島県志布志港に1隻のフェリーが停泊していた。
フェリーの名前は「さんふらわあ きりしま」。九州連邦共和国の志布志港と扶桑の大阪港の間を定期便として扶桑の海運企業、関西汽船が運航させている船である。
舷側からは荷物を抱えた避難民が次々とフェリーに乗り込んできている。
それを甲板の手すりに寄りかかりながら眺めている一人の青年がいた。
彼の名は枕崎シュウ。坂東帝国軍航空戦闘部第117師団第7分隊の隊長で階級は大尉だ。
「くっそ…ついてない……」
枕崎は船に乗るために眼下の埠頭に長い列をなしている避難民を眺めながら額に手を当てる。
休暇を取って個人的に九州に旅行にきたのだが、まさかこんなことに巻き込まれるとは思わなかった。携帯電話はいつの間にか圏外。携帯も電波がなかったらただの箱である。インターネットもほとんど繋がらない。
現在、ここから12キロほど北に行った辺りで必死の防衛戦が行われているという。
固定電話は回線があちこちで寸断され、停電のために比較的早く使用不可能になった。テレビも、鹿児島テレビがまだ観ることができるが、それも徐々にノイズが増え、観ずらくなってきている。
混乱で情報が不足し、誰もが情報に飢え、誤った情報がさらなる混乱を引き起こす。
デマは冷静になれば間違っていると一発で見抜けるものが大半だが、誰もがこの異常事態で冷静になれていない。枕崎のような一部のこういった混乱を過去に実際に経験したことがあり、対処するための訓練を十分に受けたことがある者だけが比較的冷静になれているだけである。
「枕崎大尉でしょうか?」
後ろからかけられた声に枕崎が振り向くと、フェリーの若い船員が立っていた。
「伝令で参りました!『航空軍の戦闘機が避難民輸送を行う』という情報が入ってますが、どう判断するべきでしょうか!」
「たぶんデマ。戦闘機が離着陸できるような舗装をされた1キロ以上の長さの直線がこの周囲にはない。それに戦闘機では一機で一人が限度だ」
「了解しました!船長にそう伝えます!それから、船長室に来て避難誘導の判断に助言をいただけないでしょうか」
若い船員の言葉に、枕崎は一瞬だけ考える素振りを見せたが、すぐに力強く頷いた。
「わかった」
枕崎は足下に置いたスーツケースを引っ張って若い船員の後を船長室に向かう。
より多くの人が、安全にこの戦場から脱出するために。




