V(扶桑)
@扶桑国新潟県上越市上空―高度5000メートル
2月12日扶桑標準時刻(=九州標準時刻)1315時
〈目標を確認。方位1-9-0。エンゲージ。全機散開。ハヤブサ、いつも通り突っ込んでやれ!〉
「了解!」
飛行隊長の指示で部隊は編隊を解除、ハヤブサ以外は2機編隊になって互いに離れていく。
ハヤブサは坂東40式対装甲ライフルIIの安全装置を解除、ボルトを引いて初弾を薬室に装填する。
続いて、坂東40式対装甲ライフルIIの下部にくくりつけたG36Cの安全装置も解除。弾のマークが一つだけ描かれたセミオートにあわせる。
ハヤブサはそのまままっすぐに飛行、目標のクラックゥの拠点の直上に到達する。
今回のミッションはクラックゥの戦力が集結しつつある拠点の制圧。ハヤブサはその任務のうち、前衛として拠点の対空能力を奪うもっとも危険な役割を担当する。
一時は鎮静化していた新潟戦線におけるクラックゥの攻勢は1155年12月の東北解放直後からにわかに活発になり、1156年1月10日には糸魚川が放棄、新潟県は再び完全に放棄された。
さらに扶桑国長野方面や坂東帝国群馬方面、東北合衆国山形方面、福島方面への大規模な侵攻も始まり、群馬、山形、福島方面は坂東帝国軍が部隊を派遣して何とか押さえている状態だ。
この任務もそれに対応してクラックゥの前線基地とみられる拠点を叩き、さらなる侵攻を遅らせるためのものである。
拠点の対空型クラックゥが盛んにビームを撃ち込んでくるが、ハヤブサは左右に細かく蛇行することでビームをかわしていく。
エンジンの出力を最大にセット、ロールで背面飛行に入り、垂直降下。
ハヤブサは坂東40式対装甲ライフルIIの上部ピカティに取り付けた光学照準機の中心に1門の高射砲型クラックゥを捉え、引き金を引く。
射撃。
30ミリ対クラックゥ炸裂弾が命中、高射砲型の内部で爆発。
高射砲型は白く光り、空気に溶けていく。
ハヤブサは垂直降下しながらボルトを引き、空薬莢を排出、次弾装填。
今度は対空型を撃破。
ロールで軌道を変更しつつ再びボルトを引き、空薬莢排出、次弾装填。
50ミリ級実弾兵器高射型に30ミリを叩き込むが、実弾兵器高射型は耐える。
対空砲火を細かな軌道変更で避けながら実弾兵器高射型にもう1発。
さらにもう1発。
速度は時速1180キロ、設計限界ギリギリの速度にハヤブサの背中のFFU16b-bがビリビリと震える。
さらにもう1発。
撃破。
薬莢排出、次弾装填。発砲。
高射砲型を撃破。
ロールで対空放火をよけながらハヤブサは慣れた手つきでマガジンを交換、ボルトを引いて薬室に装填。
2発で30ミリ級実弾兵器高射型を撃破。
音速を突破。
ハヤブサの体にかかっていた強い抵抗が急に和らぐ。
100ミリ級実弾兵器高射型に30ミリを叩き込み、コアを露出させる。
ハヤブサは下部ピカティにつけたG36Cの引き金を短いスパンで3回引く。
3発の5.56NATTO弾が音速を超えて真っ直ぐにコアに吸い込まれ、コアが崩壊する。
高度200メートル。
ハヤブサは体を引き起こし、固有魔法の「急加減速」を発動。ハヤブサの体の前方にシールドがいくつも展開され、急減速。
ハヤブサの体に大Gがかかり、標準的なサイズより大きく、張りもある胸が下に引っ張られる。
ナイフエッジで下降から上昇に移る。
その途中、ハヤブサはGに耐えながら扶桑48式電磁パルス手榴弾のピンを抜き、下に落とす。
手榴弾は地面に落ちると同時に作動。
超小型・超強力な磁気嵐が0.8秒ほど半径30メートルの範囲で吹き荒れ、周囲のクラックゥの感覚器官を麻痺させる。
ハヤブサはその間にエンジンのアフターバーナーに点火、垂直に上昇。
ハヤブサはアフターバーナーの蒼い炎を曳きながら上昇。
対空型や高射砲型がハヤブサを狙ってビームや実弾兵器を撃ち込んでくるがハヤブサはそれを難なくかわす。
高度5000メートルに到達。ハヤブサはアフターバーナーを切る。
再び背面に入り、垂直降下。
それと同時に数人の航空機動歩兵が拠点に超低空で侵入、ハヤブサに照準を合わせていた対空型や高射砲型を破壊していく。
さらにハヤブサが急降下しながら正確な狙いで、超音速で飛ぶ30ミリ弾を叩き込む。
ハヤブサが再び高度5000メートルに達するときには拠点の対空砲火は完全に沈黙していた。
それと同時に他のメンバーが低空から拠点の上空に突入、地上の陸戦型や移動砲台型、高機動型に機銃掃射をくわえていく。
さらに止めとばかりにFF/A-3戦闘攻撃機が低空飛行で突入、ミサイルで丹念に移動砲台型などの大型のクラックゥを1つ1つ破壊していく。
十数分後には拠点はコアを破壊され、光になって空気に溶けていた。
「では、デブリーフィングを終えます。飛行レポートは明朝8時までに提出するように。起立!解散!」
20がらみの隊長が解散を宣言すると、ハヤブサの所属する第104航空隊の隊員たちは三々五々ブリーフィングルームから出ていく。
「あ、ハヤブサ曹長とヒエンコ大尉はちょっと残って」
その中でのんびりと部屋から出ようとしていたハヤブサとヒエンコを隊長が呼び止めた。
「なんでしょうか、中佐」
「堅苦しくしなくていいわ。ちょっとした内緒話のようなもんだから……じゃあ、そこらに座って」
「はぁ」「はい」
ハヤブサとヒエンコはそれぞれ適当ないすに座る。
「……こうしてみるとハヤブサ曹長の方がヒエンコ大尉より年上みたいね」
よくて中学生、下手すると小学生中学年と間違えられるほどの童顔と身長、体形のヒエンコと身長は年相応なものの、出るべきところがしっかり出て、引っ込むべきところがしっかり引っ込んでいてとても15には見えないハヤブサを見比べて隊長は少しため息をついた。
「で、用件は?」
「ああ……南九州がかなり危ないことは聞いてるな」
「はぁ」「一応」
「で……109が再結成される可能性が高いんだ」
「へぇ」「で?」
「そのメンバーがもとの109メンバーで再結成される可能性が高いらしいんだ」
「ほえ」「ほえええ!」
驚くハヤブサとヒエンコをよそに隊長は言葉を続けた。
「で、2人はうちの部隊の主力なんだが――まぁ、この話は聞かなかったことにしてくれ。心の準備程度のもんだ」
「知り合いの日本連合番の記者から聞いたまだ内定すらしていない話だからな」と隊長は続け、解散を宣言した。
「で、どうしろと……」「ですよねー」
ヒエンコは頭を抱え、ハヤブサは無邪気にけらけらと笑った。
文中に出てくる架空兵器の解説を……
●FFU16(1152年)
[性能(b-b型)]
全長(本体):35cm
全幅(本体):40cm
全幅:130cm
(補助エンジン搭載時:+20cm×2)
全高(本体):25cm
自重:35kg
(補助エンジン搭載時:+10kg×2)
ミリタリー推力:90kg×2
アフターバーナー時推力:185kg×
(補助エンジン推力:60kg×2)
最大速度:1175km/h
実用上昇限度:15900m
エンジン:鉈飛行機MF29魔導ターボファンエンジン×2
(補助エンジン:鉈飛行機MF28魔導ターボファンエンジン×2)
特徴:FFU15の発展改良型。出力不足を補うために補助エンジンを搭載。
主翼は逆テーパー翼ではなく、内翼部は後退翼、外翼部は前進翼となっている。補助エンジンは主翼端に装備する。また、補助エンジンも翼を持ち、主翼側には主翼と一体化するように、反対側には前進翼を装備する。
バリエーション
FFU16┳a-a…1154年。生産数40機
┗b-b…1154年。改良型。生産中
(※a-a型はMF25A2を搭載)
坂東40式対装甲ライフル
種類:アンチ・マテリアル・ライフル
口径:30ミリ
銃身長:2280ミリ
使用弾:30×113ミリ
全長:3000ミリ
全長(II):2500ミリ
重量(初期型):30.5kg(空)
重量(2型):34.7kg(空)、42.5kg(通常マガジン搭載)
重量(II):25.2kg(空)
装弾数:7発
動作方式:反動利用方式?
ステータス:生産配備中
照準:アイアン、またはタイプ42狙撃弾道計算システム(早生銃工製)、坂東43式スコープ、坂東45式光学スコープ
特徴:セミオートライフル(下記の自動装填装置による)。
第2型は初期型の弱点であった反動の大きさ、強度の不足などを克服したが、その代償として重量が増した。重量は歩兵が持つには重すぎる(銃身も長すぎる)ため、専ら機動歩兵用。車載されることもしばしばある。また、基地などに設置されることもある。
自動装填装置搭載・アンダーマガジン。
通称物干し竿。
オプションでクロアチアのRT20 M1アンチ・マテリアル・ライフル(口径20ミリ)のようにバレル上面から発射ガスの一部が後方にパイプを通じて噴出し、無反動砲のようにバランスを取るシステムを搭載できる。(その代償として射程は短くなる。)
照準はアイアンサイト(目視)、スコープが搭載可能。後にピカティレールを搭載し、光学照準器などを搭載できるようになった。
ワセダ兵器敞(早生銃工)が40式のために狙撃システムを製造した。重量はあるが、戦場で観測手いらずのより正確な狙撃ができる。
また、使用弾は徹甲弾、炸裂弾、対クラックゥ使用特殊炸裂弾、榴弾はもちろんのこと、発射後にブースターに点火するロケット弾タイプ、さらに赤外線誘導機能を搭載したものまである。もちろん赤外線誘導機能を持ったロケット弾を使用するには基本的には45式光学スコープ(早生銃工製)が必要になるが。
また、ロケット弾タイプは4発専用マガジンを使用する。
IIでは軽量化・小型化が行われ、ブルパックタイプになり、全長も短くなった。また、その代償として、自動装填装置を廃止し、ボルトアクションとなった。
●扶桑48式電磁パルス手榴弾
特徴:扶桑が開発した対クラックゥ用手榴弾。
直接的な攻撃能力はないが、炸裂すると半径数十メートルの範囲に強力な電磁パルスを発生させ、クラックゥの感覚器官を一時的に麻痺させる。
ピンを抜き、レバーにかかる力がなくなってから10秒、または衝撃を受けると炸裂する。
外形は一般的な手榴弾と変わらないが、識別のため黄色く塗装されている。
主に対地攻撃で使用。空対空戦闘で密集したクラックゥの編隊の中心で炸裂させる戦法もあるが、その場合はグレネードランチャーかロケットランチャーからEMP弾を撃ち込むことが多い。