表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/32

第二十三話:本命の毒

王都の空気が――変わった。

それは、誰にでも分かる変化だった。

見えないのに、分かる。

重い。

「……来た」

リオンの声が低く落ちる。

これまでとは違う。

“層”ではない。

“圧”だ。

ルーシェの呼吸がわずかに乱れる。

「さっきまでと……全然違う……!」

肺に入る空気が、重い。

だが、倒れない。

苦しいが、動ける。

絶妙に調整されている。

「これが……本命……」

「そうだね」

リオンの目は、完全に戦場のそれだった。

空に漂う見えない層。

それは拡散でも、波でもない。

“居座っている”。

そして――

削る。

ゆっくりと。

確実に。

逃げ場なく。

「……侵食型」

リオンが呟く。

「回復を許さないタイプ」

ルーシェが息を呑む。

「それって……」

「治しても意味がない」

リオンは言い切る。

「治癒の“前提”を壊してる」

「……っ」

「回復した瞬間から、また削られる」

「だから――」

その目が細くなる。

「“治す”だけじゃ勝てない」


・王宮・深部

影の人物が、ゆっくりと瓶を傾ける。

灰色の霧が、空気に溶ける。

「均すだけでは意味がない」

「ならば――」

「均す行為そのものを否定する」

静かな声。

だが、絶対の確信。

「再生を遅らせる」

「回復を鈍らせる」

「積み上げを、無意味にする」

その口元が、わずかに歪む。

「さあ」

「それでも“安全”に拘るか?」


・屋上

風が、重い。

空気が、まとわりつく。

ルーシェが壁に手をつく。

「これ……長くいたら……」

「削られるね」

リオンは即答する。

「即死じゃない」

「だから厄介」

ルーシェの顔が青い。

「どうするんですか……!」

一瞬。

リオンの手が止まる。

ほんの一瞬だけ。

「……対処はある」

だがその声は、わずかに低い。

「ただし」

珍しく、言葉を選ぶ。

「“安全だけ”じゃ、足りない」

ルーシェの心臓が跳ねる。

「……え」

リオンは瓶を取り出す。

今までとは違う。

わずかに強く、光る。

内側から“押し出す”ような力。

「促進型」

「回復速度を引き上げる」

「でも」

そこで止まる。

「負担が出る」

静かな言葉。

重い事実。

ルーシェの指が震える。

「それって……普通のポーションと……」

「そこまで粗くない」

リオンは首を振る。

「でも――」

目を伏せる。

「“ゼロじゃない”」

風が吹く。

毒と薬が混ざる空の下。

沈黙が落ちる。

「……使うんですか」

小さな声。

リオンは空を見る。

侵食は、確実に進んでいる。

均し続けても、追いつかない。

なら――

「使う」

短く。

迷いを断ち切るように。

「前提は“安全に勝つ”」

「でも」

その目が鋭くなる。

「負けたら、何も残らない」

ルーシェは目を閉じる。

深く、息を吸う。

重い空気を、あえて吸い込む。

そして――開く。

「……助手として」

声は、もう震えていない。

「支えます」

リオンが、わずかに笑う。

「いいね」


・解放

装置に、瓶が装填される。

カチ。

音がやけに大きく響く。

「いくよ」

レバーを引く。

解放。

広がる霧は――

金色。

柔らかいのに、強い。

空気に“流れ”を作る。

回復の流れ。

侵食に抗う、別の力。

すぐには変わらない。

だが――

確実に、変わり始める。

数十秒。

「……軽い」

ルーシェが呟く。

さっきまで肺に絡みついていた重さが、

わずかに引いている。

「押し返してる……?」

「違う」

リオンは首を振る。

「“均衡を作ってる”」

侵食される。

だが回復する。

削られる。

だが埋まる。

「相手の毒が“効き続けられない状態”にする」

「……っ」

ルーシェの目が見開かれる。


・王宮

影の人物の眉が動く。

「……拮抗」

予想と違う。

中和ではない。

消していない。

「維持……?」

だが次の瞬間、笑う。

「いい」

「ならば」

瓶をさらに傾ける。

「どこまで持つ」

毒の濃度が上がる。

空気がさらに重くなる。


・限界戦

屋上。

風が変わる。

圧が増す。

ルーシェの膝がわずかに沈む。

「まだ……上がるんですか……!」

「上げてくるよ」

リオンは冷静だ。

だが目は、完全に臨界。

「でも」

次の瓶に手をかける。

「こっちも終わってない」

取り出されたそれは――

静かすぎた。

光もない。

色もない。

存在感すら、薄い。

だが。

“完成している”。

ルーシェが息を呑む。

「それって……」

リオンは答える。

静かに。

だがはっきりと。

「最終手段」

一瞬の沈黙。

そして。

「“環境そのものを書き換える”」

その言葉が落ちた瞬間、

空気が、震えた気がした。


・空

均す力。

侵す力。

そして――

“支配する力”。

三つ目が、動こうとしている。


・屋上

リオンは装置に手をかける。

まだ引かない。

タイミングを見ている。

「……今じゃない」

ルーシェが息を止める。

「え?」

「“最大まで引き出させる”」

冷静な判断。

「その上で――」

目が細くなる。

「全部、上から潰す」

王都の空。

均す者と、侵す者。

その争いはもう――

戦術ではない。

“世界の在り方”の奪い合いへと、

変わっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ