01.どうやら生まれ変わったようです
じんわりとした温もりが体の中心から手足に広がっていく。
まるで海の中に溶け込んでいるような、それとも雲の上に浮いているような、不思議な心地よさだった。
このまま全てを委ねて眠ってしまいたい。
うとうとと微睡んでいると、急に何かに引っ張られているような、流されているような感覚がした。
やめてよ、せっかく気持ちよく眠れそうだったのに。
濁流にのまれて息が苦しい。息が……できない。胸が押しつぶされそうだ。苦しいーー。
「っかは、」
次の瞬間、大量の空気が肺へ流れ込んだかと思ったら、差すような明かりが目に刺さる。
(眩しっ!!)
思わず目を閉じた。
先ほどまでの静寂とは違い、耳元で誰かが何かを叫んでいる。
「Benedia! Una filia!(祝福を! 女の子です!)」
なんだか嬉しそうな声だった。何があったのだろう。
徐々に目が明るさに慣れてきた。ぼやけた視界の向こうでは、何かが動いた。複数の人影だ。
ここ、どこ……?
というか、私はさっきまで何をしていたんだっけ。
頭がぼーっとする。
気づけば、いろんな人に、上から覗き込まれていた。
あれ。私はもしかして、仰向けに寝ている状態……なのだろうか。知らない人に心配されているのかも。
「あーーう」
大丈夫ですよ、と喋ろうとしたのに、うまく発声ができなかった。
喉が酷く乾いている。起き上がることもできなければ、腕もうまく上がらない。
なんだろう。
自分の体をうまく動かすことができない。
まるで自分の体じゃないみたいだった。鉛のように重い。
あらためて外に意識を向けてみた。周囲にいる人達は、日本人ではなさそうだった。ぼやけていてよく見えないけれど、いろんな髪の色をしている。
そこで一人の女性が私の頭部を支え、ひょいっと抱きかかえると、温かいお湯の中に私を入れた。
なんだか体がべとべとしていたからありがたい。――って、違う、そうじゃない。
一体どういう状況なのだろうか。
柔らかい掌で、体を洗われている。私……なんで、服を着ていないの。
視界の端には、赤黒い、とても小さな手が映った。
これ、私の手だ。いや、違う。私の手じゃない。
こんなに小さいはずがない。もしかして――
「んああーーー」
息苦しくて、変な声が出る。喋ろうとしても、喋ることができない。
なんで。もしかして。
そこで、女性が私の顔を覗き込み、小さく呟いた。
「Cabels neirs...?(黒髪……?)」
女性の声に、その場の空気が変わった。
先ほどまで安堵していた人々が、急に言葉を失った気がした。
「Ed egls neirs era...(瞳も黒い……)」
「Na po betg esser…Aurea?(まさか……”アウレア”?)」
「Taschai.(よせ)」
低い声がそれを遮る。意味は分からない。
けれど、皆が私を見ていた。
「Forsa mo ina casualia.(ただの偶然でしょう)」
「...Jau sper.(そうだと良いが)」
誰かが小さく息を吐いた。
何を言っているかは分からない。でも、私はそんなところじゃなかった。
いったい何が起きているの?
もしかして、私……いま、赤ちゃん……??
※本作は中世ヨーロッパ風ファンタジーですが、実際には中世後期~近世頃の文化を参考にしています。
※最初は異世界語が登場しますが、主人公が言葉を覚えていくにつれて日本語表記になります。




