第60話 case 4-とりあえず
バイク事故か…確かに父は少し、いやまあまあ運転は荒い。スピードも結構出すし…
後ろに乗った時、怖かったもんなぁ。
お通夜、葬儀が執り行われた。
祖父の時もそうだったが、涙は少ない様に央吾には思えた。
ただ、祖父の時と違うのは参列者の人数だ。
“世界の始まり神教”の県支部の幹部である母の配偶者と言う事もあってか非常に多かった。
それと祖父の時とは違う事がもう一つ。
西中島が来ていた。特に弔辞を読むわけでもなく、普通の参列者としてだ。
いや、普通の参列者では無い。
葬儀も終わり家に帰ると、西中島が見た事の無い男2人を従え、何やら母とヒソヒソと話をしていた。
央吾がリビングに入ると会話が止まる。
「お父さん…残念だったわね。これからはあなたがお母さんを守るのよ」
あの信用出来ない笑顔だった。
何で笑顔なんだよっ。とは思ったものの、
とりあえず、
「はい」
と、一言だけ返しておいた。
男たちが頭を下げて来たので、央吾もとりあえず会釈を返しておいた。
「今日は朝から疲れたでしょ。早く寝なさい」
母に笑顔はない。
別に疲れては無かったが、とりあえず、
「うん」
と、一言だけ返しておいた。
風呂から出た央吾は再度リビングへ。
やっぱり会話が止まる。
「今日は寒かったから、お風呂気持ち良かったでしょ?」
またあの口角だけを上げた気持ち悪い笑顔だ。
は?人んちの湯加減まで決めつけるなよ。と思ったが、とりあえず
「はい」
と、一言だけ返しておいた。
水を一杯飲み終えた時、
「おやすみなさい」
目線だけをこちらに向けた母のその言葉は
「早く、この部屋から出て行きなさい」
に聞こえた。
眠たくはなかったが、特にリビングに留まる理由も無いし、居たくもなかったので、とりあえず
「おやすみ」
と、一言だけ返しておいた。
また男たちが頭を下げて来たので、央吾もとりあえず会釈を返しておいた。
央吾が階段を上がっていると、西中島がリビングから顔だけを出し、
「おやすみなさい」
あのいつもの信用の出来ない気持ち悪い笑顔ではなかった。不自然に吊り上がったその眉毛は全く笑っていなかった。
それは「もう降りてくるな」に聞こえた。
とりあえず、
「おやすみなさい」
と、一言だけ返しておいた。
不穏な空気とはこの事だ。明らかに何かおかしい。布団には入ったものの全く寝付けない。
何を話しているのか…。
あの男たちは誰なのか…。
なぜ西中島がまた来たのか…。
…、…、…。
ん?寝てたか?
時計を見ると数時間経っている。そして、目を開けると同時に物凄い尿意に襲われた。
寝る前のコップ一杯の水がこんな時間に襲ってくるとは…朝まではもたないな。
仕方なく布団から出て階段を降りようとした央吾はリビングの明かりを見て震えた。




