第4話 case 2-ルーティン
学生たちの愚痴はまだ聞こえて来る…。
「おい、結局最後の問題の答えって何だったの?」
「俺に聞くなよ、スミスに聞けば?」
「無理だろ、隣にいても声聞こえないよ」
「聞こえても分からないしな」
「って言うかさ、最後の問題どころかお前ずっと寝てたよな」
「「ハハハ、ハハハ」」
(スミス)
寝てた?親の金で学校に通わせてもらっている分際で?…寝てた?…まあ私語をするやつよりはまだマシか。いずれにしろ、クズだが。
「こないだスミスが言ってた三角形の内角の和がどうとかって覚えてる?」
「うーん…あぁ、正とか負とか?」
「そうそう、平面って何?この世界は2次元?ってこと?」
(スミス)
Ω>1=球体、Ω=1=平面 …
非ユークリッド幾何学、こんな話したか?
こんなやつらに…?
この世が2次元?バカが。
3次元+時間=4次元が常識だろ。縦・横・奥行きすら認識出来ないのか。
この世界がどう見えている。
この高校はスミスが通っていた進学校とは違い、地元に唯一ある公立学校で、中の下…いや、下の上辺りの学校である。
スミスは、オックスフォード大学を卒業後、大学の研究室で物理の研究に没頭していたが、その生真面目で神経質な性格からか、体調を崩してしまった。
「やっと静かになったな。低俗な猿の戯言は聞くに耐えん」
学生どもが全員教室からいなくなったのを確認すると、スミスは学生用の机と椅子を寸分の狂いなく元の位置へ整列させながら、独り言をブツブツと喋っていた。
「まったく、机を歪め、椅子は出しっ放し…気にならんのか」
体調を崩してからは地元に戻り、1年間の静養。その後この学校に赴任し、5年目である。
「こんなやつらの為に、何年無駄にしてしまうんだ…やはり大学に…おそらく私にはあまり時間がない…」
スミスは常日頃から大学へ戻り研究を再開したいと考えていたが、自身の体調以外にも戻れない理由があった。
机を並べ終えたスミスは真っ直ぐに、そして直角に整列された机を見ると、眉間のシワが取れ表情が落ち着いた。
自分の机に戻るとハンカチで手を拭き、家から持って来たサンドウィッチとホットコーヒーを入れた水筒を取り出した。
いつもの様に左手でサンドウィッチ、右手に水筒を持ち、椅子に深く腰をかけ足を組み、束の間のランチを楽しんだ。
この日の授業を全て終えたスミスは自転車で家路につく。
家までは自転車で40分程度。医者からは脳内のアミロイドβを増やさない為にも適度な運動をするように言われていた。
スミスには帰宅の際にもルーティンがあり、それは家の近くの公園のベンチに座り水筒に残しておいたホットコーヒーを飲む事である。
大きな木の下に長いベンチが3基あり、決まって必ず東側のベンチの東端に座るのである。
雨が降ろうが、雪が降ろうが、である。




