第45話 case 4-神業入り
ようやく家に帰れる、そう思うと央吾は眠気から解放され、お腹がしっかり空いてきた。
「神業って何なの?ぼた餅ない?」
父にもう一度聞いてみた。
「神様になる為の修行の事だよ。ばあちゃんもきっと今、神業中だよ。
ぼた餅は母さんが持ってるよ」
遠くで母と西中島がまだ話している。
「テンショウサマは生きてるじゃん」
央吾は不思議に思った事をそのまま父にぶつけた。父は周囲を見渡すと、しゃがみ込み央吾よりも目線を下にし、小声で話し出した。
「央吾に言う事ではないかもしれないが、テンショウサマは今から死ぬと言う事だ…」
「…え?…今から?」
父は険しい顔で小さく頷いた…
「今はまだ央吾には分からないかもな…」
気持ち悪かった。意味が分からなかった。
ゴンギョウをしても、怪我が治る訳でもない、ばあちゃんも助けてくれなかった、もちろん姉の障害も…
神様なんかいないのに…
何をそんなに信じているのか…
信仰心への嫌悪感はあったが、央吾にとっては超絶どうでもよかった、テンショウサマには何の思い入れも無い。
それよりも早く帰る事の方が大事だ。
母が西中島と話し込み、なかなか戻って来ない事の方が問題だった。
神業に入る=死である。
世界の始まり神教での生前からの神業は過酷を極める。らしい…
神社がある山の山頂付近に大きな穴を掘る所から始まる。3メートル程の深さまで掘ると、
1.3m四方の箱の中に入り、掘った穴に埋められる。
箱には直径10cm程の通気口が取り付けられており、その通気口には、両端に鈴を着けた紐が通されている。
この鈴が地上との唯一の繋がりであり、生存確認はこの鈴で行う。
毎朝、地上から紐を引っ張り鈴を鳴らす、地下から鈴を鳴らし返せば“生”、返事が無ければ“死”。
返事が無くなってから更に3日間、それを繰り返す。3日連続で返事が無ければ、“死”と判断し通気口を塞ぐ。
そして、半年後に掘り起こす。
箱に入る際、持って入るものは漆のみ。
中で少しずつ飲むのである。
漆を飲む事で遺体はミイラ化する。
そのミイラ化した遺体を大広間の一番奥に神として祀るのだ。
「母さん、遅いね…」
「そうだなぁ。でも、あっちが渋滞してるよ」
父が指差した出入り口ではまだまだ混雑していた。
央吾が出入り口から視線を戻すと、そこには西中島がいた。
父も祖父も文一も頭を下げている。
「ありがとうございます。宜しくお願いします」
「ええ、上には私からちゃんと話をしていますから」
西中島があの信用出来ない顔で話している。
すると、央吾の方へかがんで顔を近付けてきた。気持ち悪っ!と思ったが表情に出さずに何とか耐えた。
真顔の西中島と目が合った。2秒間真顔だったが急にニコッと笑って、
「またね。おやすみ」
西中島はどっかへ行った。
「ヨシッ、やっと帰れる」
思わず声に出てしまったが、誰にも聞こえていなかった。
皆んな西中島に向かってお辞儀をしていたからだ。
央吾は車に乗り込むと直ぐに、さっきまでが嘘の様に睡魔に引き込まれた。
「央吾、起きなさい。言業の時間よ」
いつもの母の声で目覚める。央吾は目を開けようとしても、眉毛しか動かない。うっすら見えた景色からの情報では家の駐車場だ。
「ゴンギョウ?今から?」
昨日、散々やった…帰りの車に乗り込んだのが
3時頃で今が8時半過ぎ、感覚的にはさっきまでゴンギョウをしていたのに…
車から降りると、そのまま2階へ上がりテンショウサマの部屋に入った。
父は祖父を抱えまだ階段を上がっている。
ふと央吾は姉が居ない事に気付いた。
「姉ちゃんは?まだ寝てるの?」
ゴンギョウの準備をしていた母の手が一瞬止まった…
「めぐみはね、神業に入ったの…光栄な事よ」
え?…神業?




