第8章ー3 開拓村③
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
取引を終え、帰路につくトラック。
揺れる車内で、ハンスは今日見た光景を思い返していた。
あの村、やはり普通ではない。
村を築いた人間の中に、間違いなく戦闘経験者がいる。
それも、一人や二人ではない。
この地域で新たに村を作る以上、自衛戦力が必要なのは当然だ。
モンスター。
野盗。
他勢力。
脅威はいくらでもある。
だから、戦える者がいる事自体は全く不思議ではない。
だが――問題は“質”だった。
あの防衛設備。
柵。
堀。
見張り台。
どれもが実戦を想定して配置されている。
素人の寄せ集めでは、あそこまで合理的な構造にはならない。
「……高度な知識を持った奴が設計してる」
男は内心でそう結論付けていた。
軍人。
あるいは、専門教育を受けた者。
そんな人間が関わっている。
「難しい顔をしてますな」
隣に座るリビングが声をかけた。
ハンスは少し考えた後、自分の感じた違和感をそのまま口にした。
村の異様な防衛設備。
戦闘経験者の存在。
そして、あのアルスという若者。
リビングは黙って聞いていた。
やがて全てを聞き終えると、小さく息を吐く。
「……やはり、あなたも感じていましたか」
その瞬間、彼の表情が変わった。
先程までの、穏やかで人当たりの良い商人の顔ではない。
損得を計算し、利益と危険を秤にかける。
冷徹な商人の顔だった。
「実は、私も少し気になっていたんですよ」
トラックの揺れる音だけが響く中。
リビングは静かに続けた。
「あの村……妙に“出来過ぎている”と思うんですよ」
商人は静かな声で言葉を続けた。
「私は軍事について、専門的な事はわかりません」
「ですが……あの場所、雰囲気が村というより“砦”か“軍事基地”みたいに感じました」
「住人達の動きも、流民の寄せ集めには見えませんでした」
その言葉に、ハンスも頷く。
確かにそうだった。
見張り台で周囲を監視していた者。
武器を整備していた者。
黙々と柵を補強していた者。
どいつも、妙に手慣れていた。
動きが自然に身体へ染み付いている。
訓練された集団特有の空気。
少なくとも “普通の村人” ではない。
リビングはさらに続ける。
「それに、村の位置も妙です」
「正確に測量したわけではありませんが……
おそらく、あの村。一部がハンターギルド管理地域に入っています」
その言葉に、ハンスの眼が細くなる。
ギルド管理地域。
つまり、勢力境界線を意図的に利用している可能性がある。
南方勢力も強く干渉しづらい。
かといって、ハンターギルド側も完全には管理しきれない。
絶妙な位置取り。偶然とは思えなかった。
リビングはそこで一度言葉を止める。
そして、少しだけ表情を険しくした。
「それ以上に……私が一番違和感を覚えたのは」
トラックの揺れる音だけが響く。
リビングはゆっくりと告げた。
「あの “アルス” という男です」
同じ頃――開拓村。
村の中央にある建物の一室で、アルスは静かに茶を飲んでいた。
その向かいには、村長と呼ばれていた男――ヨハンが立っている。
「アルス様……よろしかったのですか?」
ヨハンが低い声で尋ねた。
アルスは湯気の立つ茶を口に含みながら、穏やかに答える。
「構わないよ、ヨハン」
「ここの存在は、いずれ知られる。なら、早い方がいいよ」
その口調に迷いはない。
ヨハンは黙って続きを待つ。
アルスはカップを机に置き、続けた。
「それに、あの護衛の男。恐らくハンターだ」
「なら、こちらから動かなくても、
ハンターギルドへ情報を持ち帰ってくれる」
そう言って微笑む。
「好都合だよ。商人とも繋がりが持てた。
おそらく、次も来てくれるだろう」
「一つ余計な手間が省けたよ」
全て計算の内。
そんな口ぶりだった。
ヨハンは静かに聞いていたが、
やがて一つだけ問いを投げる。
「……ハンターギルドは動きますかな?」
その瞬間、アルスは迷う事なく答えた。
「絶対に動く」
断言だった。
「だからこそ、貴重な素材を渡したんだ」
「 “南方地域は宝の山だ” と思わせる為にね」
アルスは椅子にもたれながら、静かに続ける。
「ハブ・ゼロと北のジャンクタウンが繋がった。
その時点で、ギルドの南方進出の障害は大きく減った」
「ハンターギルドが、この地域に興味を持たないはずがない」
窓の外では、村人達が作業を続けている。
砦のような開拓村。その中心で。
アルスはまるで未来を見通しているかのように、
穏やかに茶を飲んだ。
ハブ・ゼロへ戻った二人は、
そのままハンターギルドへ向かった。
目的は、開拓村で受け取った素材の買い取りである。
通常、商人が直接ギルドへ素材を持ち込む事は少ない。
多くは独自の販路を持っているからだ。
しかし、護衛依頼や輸送依頼でハンターギルドと関わりの深い商人達は別だった。
彼らは、利益だけでなく“繋がり”を重視する。
ギルドとの関係を良好に保つ事は、それだけで大きな利益になるからだ。
危険地域での護衛。
緊急時の情報共有。
優先的な物資納品依頼。
時には、非公開情報の提供すらある。
信頼関係があるかどうかで、得られる物は大きく変わる。
その為こうした商人達は、定期的にギルドへ利益を落とす。
素材の持ち込みも、その一つだった。
ギルド側も当然それを理解している。
関係の深い商人には、様々な便宜を図る。
場合によっては、相場より高値で買い取る事すらある。
それは単なる温情ではない。
長期的な利益を見据えた投資だ。
そして、今回素材を持ち込んだリビングもまた――
こうしたギルドとの繋がりを重視する男だった。
素材の買い取りを依頼した二人は、通常の窓口ではなく、奥の部屋へ通された。
持ち込まれた素材が珍しかったからだ。
テーブルの上に並べられた南方産の素材を、専門の鑑定士達が慎重に確認していく。
部屋には静かな緊張感が漂っていた。
やがて鑑定が終わり。
ギルド側から提示された金額に、リビングは内心驚きを覚える。
予想を遥かに超える高額査定。
たが、それも当然だった。
品質が高いことはもちろん
加えて――
この地域では、ほとんど流通していない素材ばかりだったからだ。
代金の受け渡しが終わった後、
ギルド職員が、丁寧な口調で口を開く。
「もしよろしければで構いませんが……」
「これらの素材の入手経路を教えていただけませんか?」
柔らかな物腰。
だが、その実態は、事実上の取り調べだった。
これほど珍しい素材が突然大量に持ち込まれたのだ。
ギルドとしては、当然警戒する。
密輸。
違法採取。
あるいは、犯罪組織との関与。
疑う理由はいくらでもある。
その空気を察したのか、
隣にいたハンスが口を開いた。
「……その件について、少し話がある」
低いが、よく通る声だった。
職員の表情がわずかに変わる。
ハンスは、ハブ・ゼロでも古参のハンター。
実績も信頼も厚い。
ギルド上層部とも面識がある人物だ。
そんな男が、“話がある”と言った。
ただ事ではない。
職員は一瞬でそれを理解した。
「……少々お待ちください」
「上の者を呼んでまいります」
そう言って、職員は静かに部屋を後にした。
続く
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