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第8章ー2  開拓村②

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


数日後。


彼らは、“開拓村”と呼ばれている場所へ向けて出発した。



リビングは事前に使いを送り、既に開拓村側と接触を済ませていた。


積み込まれている荷も、武器や違法品ではない。


食料。

工具。

医薬品。

衣類。


どれも開拓に必要な日用品ばかりだった。


トラックの揺れの中。

リビングが気楽そうに口を開く。


「特に敵意はなかったようですよ。要求された物も、普通の日用品ばかりでしたしね」


「もしかすると、これから大きな利益になるかもしれませんよ」


そう言って笑う。


だが、

助手席に座るハンスは、窓の外を見たまま何も答えなかった。


胸の奥にある違和感が消えない。




旅は順調だった。


荒野を抜け。

崩壊した道路を走り。

点在する廃墟を横目に進んでいく。


そして徐々に、景色が変わり始めた。


乾いた大地に緑が増えていく。


青々とした草木。

湿った土。

遠くに見える水路。


南方地域特有の豊かな自然が、その姿を現し始めていた。


やがて――

地平線の先に、人の営みが見えてくる。


木製の柵。

簡易見張り台。

立ち上る煙。


あれが、リビングが言っていた開拓村だ。


だが、それを見た瞬間、ハンスの目が鋭く細められた。


「これは……()()()開拓村じゃねぇ」


その呟きは、誰にも聞こえなかった。




一見すれば、ごく普通の開拓村だった。


周囲を囲う木製の柵。

簡易見張り台。

外敵を警戒する人影。


モンスターや野盗から身を守るための設備。


この地域では、決して珍しい光景ではない。

むしろ、これくらいの備えがなければ生き残れない。


だが――

長年修羅場を潜り抜けてきたハンスの眼には、この村は “普通” には映らなかった。


まず村の位置、川の増水を考えて少し高い所に作ってある。


見張り台の位置。

死角が極端に少ない。


柵の配置。

侵入経路を限定するよう計算されている。


そして何より。

村の周囲には、川を利用した堀が張り巡らされていた。


深さも幅も十分。


大型モンスターや車両の突入すら想定している。


さらに出入り口は三か所のみ。

数を絞る事で、防衛時の負担を減らしているのだ。



決して、素人仕事ではない。


「……戦闘経験者がいるな」


ハンスは静かに呟いた。


それも、かなり実戦的な代物だ。


規模自体はまだ大きくない。


だが、その構造思想は、単なる開拓村ではなく――

むしろ“小規模な砦”に近かった。


ハンスは警戒のレベルを一つ上げた。




村の中央付近。


その中でも比較的大きな建物の中で、商人と“村の代表”を名乗る男が向かい合っていた。


護衛のハンスは、その様子を少し離れた場所から眺めていた。


警戒を怠らず。


周囲を観察しながら。


村人達の動き。

武装。

視線。


そして――


代表の男自身を。


「……なるほどな」


ハンスは小さく呟く。


村の代表は、四十代半ばほどの男だった。


日に焼けた肌。

無駄のない体格。

そして鋭い眼差し。


何より。


立ち居振る舞いに“隙”がなかった。


ただの開拓民ではない。


歩き方。

周囲への視線配り。

自然な位置取り。


どれも、場数を踏んだ人間特有のものだった。


「傭兵……いや、軍人か?」


そんなところだろう。

戦場を知っている男だ。しかもかなり。


商談自体は滞りなく進んだ。


持ち込まれた物資は、予定通り引き渡される。

代金として支払われたのは、南方地域特有のモンスターの素材だった。


保存状態も良い。


希少価値も高い。


リビングが満足そうな顔をするのも当然だった。


取引は成功。

そして、今後も継続的な交易が約束された。


村は、安定して日用品を得られる。

商人側は、南方産の希少素材を確保できる。


互いに利益がある、まさに理想的な取引だった。


だが、護衛のハンスだけは、別の事を考えていた。


この村は、ただの開拓村ではない。

誰かが明確な意図を持って作っている。と




男の案内で、村の中を見て回る。


村人達は忙しそうに働いていた。


畑を耕す者。

資材を運ぶ者。

武器を整備する者。


開拓村らしい光景。


だが、その中にも独特の緊張感があった。

誰もが周囲への警戒を怠っていない。


そして、

配置されている防衛設備は、やはり素人仕事には見えなかった。


ハンスは隣を歩く村の代表へ声をかける。


「この村の防衛設備ですが……」


「知識のある人間が設置したものですね。どれも理にかなってる」


その言葉に、代表の男はわずかに微笑んだ。


「プロの方にそう言っていただけるとは光栄です」


「気になる箇所があれば、ぜひご指摘ください」


そう言って、


「このくらいしておかないと、この地域では生き残れませんので」


穏やかな口調。


だが、その眼は周囲を絶えず観察していた。


やはり隙がない。


ハンスはさらに言葉を続ける。


「ここは……村と言うより砦ですな」


「どちらかと言えば、モンスターより野盗対策を重視してるように見える」


その瞬間。

男は迷う事なく頷いた。


「おっしゃる通りです」


「最近、この地域では野盗が活発化しています」


「ですが、残念ながら……自分達の身は、自分達で守るしかないので」


淡々とした口調だった。


だが、その言葉には実感が滲んでいた。


ハンスは少しだけ目を細める。


そして、

核心に触れる問いを投げた。


「……なぜ、()()()村を建てたんです?」


その瞬間だった。


男の眼光が、鋭さを増した。


空気が変わる。


ただの村長ではない。

そう確信できるほどの圧が、一瞬だけ滲んだ。


だが、答えが返される前に。


別の場所から声が響いた。


「ここが “発展性を秘めた土地” だからですよ」




ハンスの男が声のした方へ視線を向ける。


そこには、一人の若い男が立っていた。


年齢は二十代半ばほど。

身に着けている物は質素だった。


決して豪華ではない。


だが――

その立ち姿には、不思議な気品があった。


自然と人を惹きつけるような空気。


そして何より、

若さに似合わない落ち着きがある。


「アルス様」


隣にいた村長が、わずかに姿勢を正して声を上げた。


その反応を見て、ハンスは内心で眉を動かす。

ただの若者ではない。何より村長が()()()で呼んでいる


アルスと呼ばれた男は、穏やかな足取りでこちらへ近づいてくる。


「初めまして、アルスと言います」


柔らかな口調だった。


「今回は危険を冒して、ここまで来ていただきありがとうございます」


そう言って自然な動作で握手を求める。


ハンスも応じた。


その手は細く見えたが、不思議と力強さを感じた。


リビングが興味深そうに尋ねる。


「先程、“発展性を秘めた土地”と言っていましたが?」


するとアルスは、柔らかな笑みを浮かべたまま答えた。


「南方地域は、豊かな土地です」


「ですが、それだけでは限界があります。

閉じた土地では、いずれ発展も止まる」


そこで一度言葉を区切り、周囲の景色を見渡す。


「発展には、外との繋がりが必要なのです」


「ここは、北部のハブ・ゼロとも比較的近い」


「貴方達のような商人が来てくだされば、取引を望む者達も自然と集まってくるでしょう」


穏やかな言葉。


だが、その内容は驚くほど現実的だった。


理想論ではない。


物流。

交易。

人の流れ。


それらを理解した上で語っている。


アルスは最後に微笑みながら言った。


「ハブ・ゼロへ戻られたら、ぜひこの村の事を広めてください」


()()()()()()待ちしております」


その笑顔を見ながら。


ハンスは、静かに確信していた。


――この村。何よりこの男達。


やはり、ただの開拓者の村じゃない。



続く

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