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サボり魔先輩に恋に落ちるまで  作者: 春夜もこ
17/17

後0日~涙の卒業式~

 卒業式。それは未来への希望と不安を胸に、別れを悲しむ日。


「それがどうしてこうなったんだろう」


 私は別の意味で悲しんでいた。保健室で。


 昨日まで体調を崩していた私は、随分良くなったので学校に来ることができた。そこまでは良かったのだが、保健室の先生に今日は卒業式だけだから休んでいなさいと言われ今に至る。


 そういえば去年も体調悪かったっけ。懐かしい、そこで眞白先輩と出会ったんだよね。


「はぁ…」


 できることなら先輩をこの目で送り出したかったなぁ。今まで散々お世話になったんだし。というわけで今悲しんでいたのだ。


「メッセージだけでも入れておこう」


 誰もいないからいいかと思い、鞄の中からスマホを取り出して、先輩との会話を開く。


『卒業おめでとうございます』


 送信っと。初めて自分からメッセージ送った気がする。

 というか、私もしかして卒業式に嫌われている…?去年も体調崩していたし。もしかして、来年も出席できないかも。そうなった場合って、どこで卒業証書受け取るんだろう。校長室かな?


「今頃卒業証書受け取っていたりするのかなぁ」


 眞白先輩のことだから、嫌そうな顔をして壇上に立っている気がする。球技大会の得点王の表彰もすごく嫌そうだったもんね。懐かしい。


 だめだ、全て懐かしく感じる。それに暇すぎる。本でも読んで時間を潰そう。






「澄野さん、後もう片付けだけで解散したから、帰っていいですよ」

「わかりました。…私、学校来た意味ありました?」

「出席にはなったから」


 じゃあ来た意味あるかと納得して、鞄に本とスマホを入れて保健室を出る。


 今頃教室と校門付近では3年の先輩方が別れを惜しんでいるんだろうか。校門、通りにくそう…。まるで卒業生みたいな感じで帰ろうかな。


「あ、そうだ」


 その前にせめて、あの場所に行こう。






 私が向かった場所は、眞白先輩と自己紹介をして以降、何かとお世話になった階段だった。在校生は片づけで体育館の方にいるし、卒業生もこっちに来る用はないのか、人一人いなかった。


「なんだか不思議な感じ」


 いつもなら、ここに眞白先輩が座っているのに。いやまぁ、毎回いるわけじゃないんだけど。それでも鮮明に、ここに座って教科書を読む先輩の姿を思い出せる。でも、明日からはもういないんだよね。もう二度と。


「寂しい…」


 そう思うと、急に実感が湧いてきた。頬を一筋、涙が伝った。


「あ、やっぱりここにいた」

「眞白先輩…?」

「あれ、なんで泣いてんの?」


 ふと後ろから声を掛けられた。聞き慣れた声。泣いている姿を見せたくなかったけど、もう二回も見られているしと諦めて、後ろを振り返る。そこには、胸元にコサージュを付けた眞白先輩がいた。


「寂しいなと思ったら、涙が…」

「…ごめん」


 先輩は一言呟くと、私の体を抱きしめた。突然のことに、小さな声が出る。


「せ、先輩…!?」

「ちょっと我慢できなかった」

「我慢…?」


 ますます意味がわからなくなり、頭が混乱する。涙はすっかり止まってしまった。


「俺さ、澄野のことが好きなんだよね」

「へ!?」


 衝撃の事実に、思わず抱きしめられたまま眞白先輩を見上げる。


「それはどういった好きで…?」

「恋愛的な好き。バレンタインの時にすぐわかるって言っただろ」


 そういえば、そんなことを言っていた。でもまさか、その相手が私のことだなんて思ってもみなかった。


「い、いつから…?」


 思い返しても、先輩が私に気がある素振りを見せた記憶がない。どちらかというと、いつも保護者で…いや待って、ある。めちゃくちゃある。握られた手の温かさも、頭を撫でられた優しさも、思考が止まるほどストレートな言葉も、全部覚えてる。


「最初からって言ったらどうする?」


 眞白先輩はそう言って、不敵に笑った。


「最初…あ、もしかして、入学…?」


 教頭先生の言葉を思い出す。そういえば、一昨年は球技大会以外出なかったと言っていた。裏返せば、二年生からは参加していたということになる。じゃあ、私の自意識過剰じゃなければ、先輩がイベントに参加するようになった理由って…。


「入学式で目の前を通った時に気になって、ガラにもなく凝視したんだよな。今思うと一目惚れだったんだと思う」

「性格が合わなかったらどうするんですか」

「一年一緒にいて気持ちが変わらないってことは、もうそういうことだろ」


 そう言われたら、もう何も言えなくなってしまう。先輩といた時は常に素だった。体調を崩して看病してもらったこともある。クリスマスパーティーも後日になった。


 それでも先輩は、私を好きでいてくれた。


「面倒くさくないんですか?」

「全く」

「やっぱり先輩は優しすぎます…」


 すぐに、そしてはっきりと否定してくれたことに、先ほどとは違う涙が流れる。まさか、そんな人が現れるとは思っていなかった。


 眞白先輩はしばらく抱きしめたままでいてくれた後、ゆっくりと体を離した。


「改めて、澄野が好きです。俺と付き合ってくれませんか」

「でも私おみくじ小吉でしたよ。大丈夫なんですか?」


 あまりそういうのは気にしないタイプではある。でも、もしこれで眞白先輩が私から離れてしまったら、とても悲しい。そういう意を込めて先輩に確認すると、先輩はまたしても不敵に笑った。


「自分から動かない方が吉。言い変えれば、俺から告白するのは大丈夫ということだろ」

「た、確かに」


 ああもうこの人は。本当にかっこいいんだから。敵わないなぁ。


「で、返事は?」

「よろしくお願いします」


 泣きながら、でも笑顔で答えると、眞白先輩は今までで一番優しく笑って、もう一度抱きしめてくれた。先輩の体温が心地良い。

 そして同時に襲ってくる胸の高鳴り。


 どうやら私は、先輩に恋に落ちたみたいです。

これにて完結です。

ありがとうございました!

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