卒業〜それぞれの進路(みち)へ〜
まだ肌寒い三月のある日、瑠奈達は大学の卒業式を迎えた。キャンパスは袴やスーツなど、思い思いの盛装をした卒業生で賑わう。学と瑠奈はと並んで写真を撮ってもらっている。カメラマンは拓也だ。
「学。瑠奈ちゃん。お幸せに。結婚式には招待してね。…うっ…うっ…。」
まだ、結婚の約束のことは話してないのだが、拓也はこのザマだ。まあ、盛装して並んでいる様子が新郎新婦を連想させたことにしておこう。
「お前こそ、彼女できたら紹介しろよ。」
「瑠奈ちゃん。学に愛想尽かしたら、いつでもおいで。ずっと待ってるから。…うっ…うっ…。」
「おいおい…。」
学は冗談に聞こえない拓也の言葉に苦笑する。
「瑠奈ー!時々はゴハン行こうね!社会人一年生も、恋人探しも頑張るよ。」
春奈が名残惜しそうに言う。
瑠奈にとって、長いような短いような4年間だった。大学受験を突破して、希望の大学に入学して。入学式で隣に座っていた大人びた春奈とすぐに友達になった。その後、サークルに入って。そこで学と出会ったのだ。サークルはすぐに飽きて辞めてしまったが、学とはいつも一緒にいた。たくさん待ち合わせして、大学の行き、帰りを共にしたこと。お買い物に行ったこと。お気に入りのランチのお店を開拓したこと。ケンカしてもいつでも我慢強く、機嫌が直る努力をして待っていてくれたこと。学のお見合いをぶち壊すために、当時は慣れないスカートをはいたこと。友達では、ない関係に変わったこと。恋、嫉妬、結婚。無関係だったはずのことが身近なものに変わったこと。
思えば、学と出会ったことが、すべての始まりだったのかもしれない。
「お前達、キスしろ!」
一人が言い出すと、拍手が沸き起こった。
「そうだそうだ!公認カップルとして責任を取れ!」
気づくとぐるりと囲まれていて、全員が手拍子をしている。
「ちょっと、何?結婚式の二次会じゃないんだから!」
ねえ、学?と隣に顔を向けると、学は、ぐいっと抱きしめ、瑠奈と唇を重ねた。
何がなんだかわからないうちに拍手に包まれ、瑠奈はポカンとしている。そこで学が宣言する。
「俺たち、結婚します!だから続きは結婚式に!楽しみにしててくれ!」
学に目をやるとニカッと笑って言った。
「卒業だから、解禁な。」
桜の舞う中での結婚宣言にキャンパスはさらに賑わった。
“待ち合わせ”の場所が二人の部屋になる日は、遠いことではないでしょう。
【完】




