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それぞれの決意表明(?)を聞き終えた所で(とはいってもぼくがんばるーとか言って抱きついただけだったり、そんな感じ)、誰もいない部屋だから丁度いいので、今後の事について話すことにした。
「あのね、私一度別の世界に行ってこなきゃいけないの。私の母親……うん、前の精霊姫なんだけどね、繋がりが薄くなったから皆を解放して、それから次元を渡ったと聞いたわ。それで合ってる?」
私の言葉に進み出たのは飛沫だ。この子はこういう話し合いの先導者なのね。
「はい、間違いありません。ある程度年数が経つと精霊姫の世代交代が起こります。何年か、何十年か……まちまちなので予測が付かないのですが。
通常力が弱まる時にはすでに後継者が存在し、速やかに交代の儀を迎えこの国にはなんの影響も与えませんでした。……が、今回非常に珍しく血縁者が後継者と選ばれました。そうです、先代の中で――――」
そうか……次代に選ばれた私は母親の胎内で成長への鼓動を始めていた。すぐに交代が出来る筈もなく更に世界を超えてしまったので、精霊達は拠り所を無くして天候が荒れたようだった。
うーん、どうしたらいいのかな。
すると、光があっさりと口にした。
「なんだ、その様な事……簡単ですよ」
「えっ?」
「『血』ですよ。お姫様、あなたの血を私たちに預けて下さい。そこから力が貰えるので暫くは状態を維持することが出来ます」
「そう……ですね。血が繋がりの楔となり私たちも惑わずにすむでしょう」
飛沫もその言葉に頷く。
「それに」と光が部屋の片隅に置かれたある物を指差し微笑んだ。
「あの繋がりの血ならばより一層」
「キャーーー!」
汚してしまった敷布を後で自分が洗おうと置いていたものだった。いやっ、流石にそれはっ!
しかし「折角……」「力が一番……」「誰にも見せない……」など説得されてしまい、しぶしぶ渡す約束をした。
荷物の中から布袋を取り出して、問題の箇所を最奥へと厳重に折り畳んで袋にしまい、強く強く念を押して飛沫へ手渡す。
「いい、ゼッタイに、誰にも見つからないようにしてね!」
「わっかんねーな。これってそんな恥ずかしいもんなのか?」
焔をはじめみんな不思議な顔をしてたけど、精霊と人間とではそもそも違う立場だし理解が出来ないのも仕方がない。
さてと。
母親に顔を合わすのはとても気まずいけれど。……うん、とっても気まずいけれど! どこにいるか探して精霊達の事や私達の細かな話をしに行かないと!
魔窟を抜けて廊下への扉を出た所で丁度ロゥが書類を持って入ってくる所だった。沢山重なったそれで扉を開けるのは無茶じゃない? 「手伝います!」と扉を開けて書類の束も幾つか持ち、一緒に執務机に置きにいった。
「ウンノ、助かった。礼を言う」
「どういたしまして。それにしてもすごい量ですね……」
書類の束というか、もう山になっている。それをテキパキと慣れた調子でロゥは自分で処理できる物、ジェネのサインがいるもの、細かく話を詰めなければならない案件など細々仕分けて行く。デスクワークの達人なのに、ジェネを支えたいから畑違いの騎士団に入団したという変わった人物だ。
「ああ、これから人事異動や法制改革、それに……処罰対象の精査をしなければならない。宰相や大将軍以下かなりの人数が削られ、今いる者達で割り振っている所だ」
私はあの会議の場にいなかったから分からないけれど、宴会の最中チラホラと耳には入った。まあほとんどが『翔の非常識さ』が目立っただけなんだけどね。だけどこの国は大きく動くんだろうな、とその時私は大きく期待を持った。だってマルちゃんもやる気になったし、お父さんであるこの国の騎士団長、そしてお母さんは前精霊姫、ジェネもハルもイル・メル・ジーンも、それからみんなみんな表情が明るかった。前を向いて歩く、一団となって。
そして私もその一部でありたい、そう願うようになった。
「あれ……そういえばバッツっていませんでしたね? どこにいるんですか?」
騎士団の食堂で初めて料理をした時以来姿を見ていない。昨日の宴会にもいなかったので、すこし気がかりだったのよね。
「……バッツは姉と一緒に田舎へ帰ったんだ。あちらで自警団員がどうしても必要という事で急ではあるが」
一瞬空気を飲み込んだ様な間があったけど、ロゥはバッツの不在の理由を教えてくれた。お姉さんといえば『上目遣いでおねだりポーズ』が必殺技な人だったわ。いつかお姉さんにも会ってみたいな――お互い変わった弟を持つ姉同士として。
「そうなんですか……残念です」
なんとなくそれ以上訊ける感じではなかったので話を変え、母親の居場所を尋ねた。




