壊された平和と尊厳
「お?なんだあれ?」
草木の隙間からチラリと見えたモノに目を向ける。
「あれは………もしかして!」
疑いは確信に変わり、その場所へと、自然と脚が向かう。
茂みを抜け、蔓をくぐり目的地に着く。
「これ…道だ!」
その場所の周りだけは木々が生えておらず、一本の道となっており、道が続く先をよく見ると、人の手で造られた大きな門が見えた。
「まずい…道の近くには行くなって母さんに言われてたのに…」
でも…でもやはり少し…
人恋しい。
母さんとの生活が嫌なわけではない。
猫の身体になって不便こそあれど、それ以上に楽しい毎日だった。
「と、とにかく戻ろう…誰かに見られる前に…」
踵を返し、元いた場所に戻る。
「私は…猫だ…」
そう呟きながら、未練がましくあの道を眺める。
ここから見た道はとても、とても輝いて見える。
まるでこっちに戻ってこいと言わんばかりに。
鉛のように重たくなった脚を引きずるように無理矢理動かし、ゆっくりと、一歩ずつを泥濘から抜け出すように重く踏み締めながら歩き出す。
もう振り返る事はない。
そうして1匹の子猫は真っ暗な森の闇に消えていった。
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暗い暗い森の中で、ひたすらに身体を舐め、毛繕いする。
まるで人間が忘れたい事柄を頭を掻きむしって忘れようとする様のように。
「ふうぅぅ…なん…とか…」
ひとしきり舐めて落ち着いたのかグルーミングをやめ、墨汁を塗りたくったように黒く暗い森から空を眺める。
とうに空を照らしていた偉大な光は堕ち、幾万もの輝く星屑が夜の始まりを告げていた。
「………やっぱり綺麗だな…」
この世界でもう何度眺めたかわからない。
この世界の住民には大した事はないのだろうが、一般社会を生ける会社員にとっては何度眺めても飽きることのない絶景だ。
「へへっ…なんか気が楽になってきたな。後で母さんのことモフろっと」
この猫、ゼロか100しかないのだ。
「腹が減ったな。この時間は狩りしにくいんだよなぁ…」
そう思って立ち上がろうとした時――――
巨大な破裂音と共に左耳に大きな衝撃が走る。
「いっっ⁇!!」
声を出そうとするも、それが声の形を持って発せられる事はなかった。
猫の鋭い聴力が災いし、視界が大きく揺れる。
耳が、痛い。
「ぎ…あっっ!!」
そこではじめて気づく。
自分の声がよく聞こえない。
くぐもって聞こえる。
耳鳴りも止まらない。
「か、はぁっ」
平衡感覚が崩れて地面に倒れ伏す。
朦朧とした意識の中、乱暴に持ち上げられる。
「やったなファル!こーんなところにミミルクネコがいるなんて!バカな奴もいたもんだ!」
絵に描いたようなチンピラの姿をしたイレズミ筋肉ハゲが唾を撒き散らしながら話す。
「あぁ!しかもコイツは子供だ!近くに親がいるかもな!」
人生でカンパンしか食べた事なさそうな見た目のピアスだらけのヒョロガリがそう答える。
「く、臭い!歯ァ磨いてないだろ!離せ!」
短い手足で抵抗するも虚しく。
「おおっとっと。元気な奴め。おい!カゴもってこい!アイツらにも伝えろ!」
自分の顔に引き寄せ、腐卵臭のする口を広げる。
「おぉーし待ってろよ!すぐ連れて来るぜ!」
そう言ってファルと呼ばれたヒョロガリは道の方向へと消えた。
「よーしよしよし。大丈夫かニャ〜?おじたん達がすーぐ素敵な場所に連れてってやるからニャ〜?」
やめろ!それはケットシーとか美少女獣人がやるから映えるのであってお前がやっても何処にも需要なんてない!
「離せこのっ!コンゲラーテ!」
そう言って魔法陣を生成し男の股下からテツケヤキと呼ばれるとても硬い苗木を勢いよく生やして成長させる。
「ア゛ッッ!」
ハゲはあまりの痛みに手で抑えてその場でうずくまる。漢女になっているかもな。あーあ男の証が無くなっちゃって可哀想に。私を捕まえなきゃ良かったのに。
この技、ナッツクラッカーって名付けよう。
さて、
「母さん!母さん来て!」
呼ぶのはこれだけで十分だ。
「こ、のっっっクソネコッッッ!!」
あら、漢女になる支度は済んだのかしら?花嫁修業は大変よ?
脚を震わせ、内股気味になりながらナイフを取り出しこちらに向ける。
「まだ立つのか?!コンゲラーテ!」
次はナッツじゃ済まなくなるぞ?
しかし、
「ゥオラッ!」
薄く光ったナイフを魔法陣に向けて振ると…
「えっ?!」
魔法陣が簡単に砕け散った。
「テメぇぇ…魔力の周波数がダダ漏れナンだよ…魔力はそんなにネェみてェだなァァァ?!」
ありがとう!そんなゲームのNPCみたいに律儀に教えないほうがいいんじゃないかな?!
「ブッ殺して剥製にしてy」
「あ」
「え?」
夜空の星屑が消え、天から人類の宝といえるモフモフが舞い降りる。
漢女ハゲを下敷きにして。
おつかれさん。ダーウィン賞待ったなしだ。
エコバッグに入れる順番を間違えた卵みたいに潰れている。
「よくも…」
今までの優しい声とは違い怒気を孕んだ声を発する。
「な、なんだあのデカさは?!」
いつの間にか戻ってきていたヒョロガリが持っていた鉄カゴを地面に落としてそう言う。
「よくも私の大事な息子に手を出したわね!!!」
この世で最も頼もしい声が森中に響き渡った。
周波数は氣力、魔力のどちらにもあり、何もしていない状態の周波数は固定されていてそれぞれみんな違う。
同時使用して爆発する原因は体内でこの同じ周波数がぶつかって爆発するから。
逆に言えば周波数が合わなければ体内に流し込まれても爆発することはない。
自分であれ相手であれ、体内から出ると全て同じ周波数に揃えられる。※魔法陣は体内から使って出しているので外に出た判定ではなく、自身の周波数になる。
同じ周波数になるのは、『世界』の体内だから。
体内の方が周波数が強くなるため、魔法を受けた際、ダメージはくらえど体内で相手の魔力または氣力の主導権が手に入るので、瞬間的に身体が他の力を使うのを強制的に辞め、自動的にくらった力と同じ力を流して全身で受け流し、くらった方と反対側に力をすり抜けさせることで爆発することがない。
しかし力の運用が強制的に止まるためくらえばピンチになることに変わりはない。
※力が混ざっても一瞬で爆発するわけではないのでミスってもすぐやめれば爆発しない。




